「また続かなかった」「自分は意志が弱い」——ダイエットを繰り返してきた人ほど、そう自己批判に陥りがちです。しかし、体重は意志の強さだけで決まるものではありません。体質、食欲や満腹感を調節するホルモン、睡眠の質、ストレス、服用中の薬など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。さらに、仕事や家庭の状況も、健康的な習慣を継続する難しさに影響を与えます。肥満症をめぐる誤解は、本人を不必要に責めるだけでなく、医療機関への受診や相談の一歩を遠ざける原因にもなりかねません。
そこで、糖尿病専門医・指導医の三浦正樹先生(亀田総合病院 糖尿病・内分泌内科 部長)に、まず知ってほしい3つの誤解について伺いました。
誤解1:「太っているのは、意志が弱いから」
食事や運動が体重管理に重要であることは間違いありません。しかし、それだけで体重を説明しようとするのは、医学的に単純化しすぎです。体重には、遺伝的な体質、食欲や満腹感に関わるホルモン(グレリンやレプチンなど)、睡眠不足、慢性的なストレス、ステロイドや抗うつ薬などの薬剤が影響します。また、働き方や家庭環境によって、治療や生活改善を続けやすいかどうかも変わります。
「意志が弱いから」と言われ続けると、本人は相談する前から傷つきます。責められることを恐れて、病院に行くこと自体が怖くなる人も少なくありません。肥満症を治療の対象として捉えることは、本人の努力を否定することではありません。努力だけで抱え込まず、医療と一緒に考えていくことも大切です。
誤解2:「食べる量を減らせば、すべて解決する」
食事の量や内容を整えることは治療の土台です。しかし、減量後に体が元の体重へ戻ろうとするホルモン適応反応が起こることが知られています。以前よりも食べていないのに体重が戻る、空腹感が強くなる、同じ努力を続けているのに結果が出にくくなる——こうした変化は、本人の気のゆるみだけでは説明できません。研究では、減量後も長期間にわたって食欲促進ホルモンが増加し、満腹感ホルモンが減少した状態が続くことが示されています。
だからこそ、必要なのは「もっと我慢してください」で終わる指導ではなく、体重、血糖、血圧、睡眠、生活リズム、薬の影響などを含めて、続けられる方法を一緒に考えることです。
誤解3:「薬に頼るのは逃げである」
肥満症治療薬については、「薬で痩せるなんて」と否定的に受け止められることがあります。しかし、肥満症の診断基準を満たす場合には、医師の診断・管理のもとで薬物療法が選択肢となります。これは「逃げ」ではなく、医師が必要性と安全性を見極めて行う医療行為です。
一方で、薬は魔法ではありません。食事、運動、睡眠、生活リズムの見直しが土台にあります。また、インターネットやSNSで見かける「痩せる薬」を自己判断で入手したり、中止したりすることは避けるべきです。適応や使い方は人によって異なるため、必ず医師に相談してください。
家族にできること:体重への正論ではなく、相談できる入口を一緒に作る
「意志が弱い」と片づける前に、まず知ってほしいのは、肥満症は責めるより先に相談してよい病気だということです。家族にできることは、正論をぶつけることではありません。「一緒に健診結果を見よう」「相談できる先生を探してみよう」と、受診の入口を作ることです。
肥満症の治療は、体重を減らすことだけが目的ではありません。外来では、「子どもが成人するまでは元気でいたい」「まだまだ働きたい」といった声もよく聞かれます。治療は、そうした人生の目標を実現するための選択肢の一つでもあるのです。



