AI(人工知能)は、ITサービスから軍事まで、あらゆる産業分野の競争力を左右する存在となった。製造業の強みを生かして新たなAI戦略を推進し、国際競争を勝ち抜いていきたい。
新会社「ノエトラ」始動
政府が5年で1兆円規模を投じて国産AIを開発する新会社「ノエトラ」が始動した。ソフトバンク、ソニーグループ、NEC、ホンダを中核に、製造業やIT、金融など日本を代表する44社が参加する大型プロジェクトだ。
AIを巡る国際競争は米中が主導し、激しさを増すばかりである。これに対し、日本は工場現場のデータを生かし、ロボットなどを動かせる「フィジカルAI」で対抗する戦略を打ち出した。
米中との違い
米国は、対話型AIサービス「チャットGPT」や新型AIモデル「クロード・ミュトス」を普及させ、世界を席巻している。文字を中心に大量のデータを読み込んでモデルを構築し、多様な企業が利用することで生産性を向上させている。日本が追いつくのは難しいのが実情だ。
AIを海外に依存したままでは日本経済や企業の競争力は損なわれてしまう。経済安全保障の観点からも巻き返しは急務である。
フィジカルAIの強み
日本が目指すフィジカルAIとは、ネット上に流通しない工場現場のデータを活用するものだ。製品の生産過程では「摩耗・熱・振動」などが生じる。現場では、こうした物理特性を労働者が感じ取り品質を向上させている。海外AIには渡せない、競争力の源泉である貴重なデータだ。
これによって、日本は産業用ロボットや工作機械、自動車などで有数の競争力を築いてきた。この分野で国産AIの開発に成功すれば、ロボットや機械を動かすための共通の基盤となる。日本企業全体が活用することで、一段と高品質な製品を生産できる。
政府目標と今後の課題
米中とは異なる道筋で国際競争を勝ち抜こうとする戦略への期待は高い。政府はフィジカルAIを基盤に、2040年までに1000万台規模のAIロボットを国内に導入する目標を掲げている。製造業や建設、物流、介護、農業など18分野での導入を集中的に支援するという。経済や社会への恩恵は大きいだろう。
大胆な挑戦だけにAI人材の育成の強化は不可欠だ。スピード感ある経営判断も問われる。競争の激しさを踏まえれば、政府資金だけでは足りまい。民間資金をさらに呼び込めるよう、戦略を不断に更新していくことも大切だ。



