生成AIの急速な普及は、ホワイトカラー業務の在り方を揺さぶっている。将来の雇用に不安を抱くオフィスワーカーも見られる中、注目したいのが製造・設計といった現場の最前線へとキャリアをシフトする動きだ。
デスクワーク中心のオフィスワーカーがAIによる代替の危機に直面する一方で、製造業や設計業などの「現場」で働く人々にはどのような影響が生じ得るのか。これからの現場リーダーを担うのは、どんな能力を持った人材なのか。
東京大学名誉教授で、慶應義塾大学 特任教授の藤本隆宏氏への取材から見えてきたのは「仕事のライトブルー化」と「現場サイエンティスト」の台頭だった。
ホワイトカラーとブルーカラーの境界が消える
まず前提として「ホワイトカラー」と「ブルーカラー」という言葉の定義を考えたい。藤本氏は「これらは人材の属性ではなく、仕事(タスク)の分類だ」と指摘する。
ブルーカラー業務とは、体を動かしてモノや環境に働きかける物理的な作業を伴うものを指す。対してホワイトカラー業務とは、データ収集や分析、指示出しなど、情報空間で完結する情報処理の作業だ。
デジタル技術が導入され、自動化が進んだ工場や設計現場を思い浮かべてほしい。現場における1日の作業内容を紐解くと、モニターやメーターで作業が正常に進行しているか確認したり、データの集計や仮説立案をしたりと「ホワイトカラー的作業」が大きな割合を占めていることに気付く。一方、異常時の対応や段取り替え(生産ラインにおいて流す製品に合わせて設備などの設定を変更する作業)、改善のための実験など、物理的な「ブルーカラー的作業」も存在する。
「この1日の業務を時系列の帯グラフにし、ホワイト作業を青、ブルー作業を赤で塗り分けたとします。すると、青と赤が入り交じったそのグラフは、遠目に見れば水色(ライトブルー)に見えるでしょう」(藤本氏)
このような仕事を担う人材を藤本氏は「ライトブルー人材」と呼び、日本の生産現場の多くは、今後こうしたライトブルー職場へと変貌を遂げていく予測する。
AIに「奪われる現場」と「助けられる現場」
生成AIをはじめとするテクノロジーの進化は、ライトブルー化の流れを促進すると考えられる。生成AIがもたらす雇用的・心理的インパクトは、純粋なホワイトカラー職場と現場のライトブルー職場とでは異なる。
ホワイトカラーとして分類される、情報空間で完結する仕事は、AIによって大部分が代替される。デスクワーカーの間には「10年後に自分が職場で活躍している姿が想像できない」という不安が広がっている。
一方、ブルーカラーの仕事ではどうだろうか。現場では、異常の検知・警戒や原因の推定、改善策の提案などはAIが担うようになる。しかし、最終的な意思決定や物理空間での機器操作・緊急対応といった「人間が体を動かして実行する局面」は残る。
「現場におけるAIは、人間の仕事を奪うものではなく、人間の意思決定と実行を『補完』し、助けてくれる存在となる。AIやDXを活用することで、むしろ将来の『明るい現場』が想像しやすくなるかもしれない」(藤本氏)
また、これまで日本企業の一部に「本社のホワイトカラーが勝ち組、現場のブルーカラーが負け組」といったといった既存意識が存在していたとしたら、今後、大きく覆る可能性があるとも同氏は指摘する。
これからの生産現場で活躍するのは誰か。求められる能力とは。



