国内の野球人口が減少する中で女子の競技者が増えている。選手を支える指導者や女子の元トップ選手は女子野球の現在地と将来についてどう考え、日々の現場に向き合っているのか。3人の方に聞いた。
理論派指導者が語る女子野球の魅力
高校(東海大工)入学時から外野手として期待された弓桁義雄さん(62)は、2年秋の練習でフェンスにぶつかって大けがをしたこともあって指導者への道を歩んだ。男子で中学軟式、高校硬式、また中学を経て女子硬式部を指導している。
「女子野球は明るくてコミュニケーション能力があり、指導者も楽しい。それは私が目指してきたことです」と語る。技術的には、バットの握り方のように細かいところからしっかり教えてあげなければいけないという。お兄ちゃんの後を追って野球を始めた選手も多いから、「教わりたい」「学びたい」という気持ちが強いのだ。
「世代を超えてやれるのが女子の良いところで、私の学校も立地を生かし、高校生と大学生が一緒に練習してお互いに刺激を受けています」と話す。うちの高校の女子硬式は2020年に3人の同好会でスタートして、今は70人超。ほとんどが軟式経験者だ。中学世代の女子は圧倒的に軟式をやっている子が多く、能力のある子も多いという。
軟式のしなやかさが硬式でプラスに
弓桁さんは硬式も軟式も指導した。「それぞれの良さがありますが、軟らかい球から硬い球になるというのが日本で野球が普及していった理由だと思います。男子も女子も中学までは軟式を勧めます」と話す。
硬式球は固く握るので、そのための体を作らなければいけない。軟式球は柔らかく操作するのでしなやかさが必要で、指先の使い方が後々にプラスになる。甲子園で活躍する投手にも軟式出身者が多いという。
スポーツに出会って、その競技の魅力を感じられるかどうか。男子は甲子園に出てプロにという目標がはっきりしているが、女子はまだそこがはっきりできていないし、体力的にも男子と同じではない。だから選手自身が「やって良かった」と感じ、見ていても面白い競技にすることが大事だと話す。「一流選手を育てることよりも一生懸命取り組める場を提供したい。それが生涯スポーツ化にもつながっていくと思います」と語る。
元祖二刀流が見た女子野球の広がり
「兄の野球チームの餅つき大会で雪合戦が始まって(小学生の)私が雪の玉を投げるフォームを見た監督が『あの子、誰や』って。それが始まりでした」と小西美加さん(43)は振り返る。私が子供の頃は「女子は危ないから野球をするな」という時代だった。小3で野球を始め、中学でボーイズリーグの入団テストを受けて男子を含めた評価がトップだったのに「女子は入団できない」という規約の壁に阻まれた。
中学で陸上、高校と短大ではソフトボールをやり、でも野球を諦めきれずに卒業後は女子野球日本代表に入り、ワールドカップ(W杯)にも出場できた。当時はプロがなく、仕事をしながらの野球は「夢」ではなく「趣味」と言われた。そんな時、女子プロ野球の創設を知り「ようやく思い切り野球ができる」と入団テストを受けた。
開幕当初は「女子が野球?」と半信半疑で球場に来るお客さんも多く、選手たちは「来て良かった」と思ってもらえるプレーを見せようと必死だった。2~3年目には「女子もこんなプレーができるんだ」という声が増えた。私は「130キロを投げてさく越え本塁打を打ってママさん選手になる」という目標を立て、2年目には女子プロ野球史上初となる公式戦でのさく越え本塁打を打った。
応援される環境を世界中に
女子プロ野球草創期には高校の女子硬式野球部は5校だったが今は70を超え、女子が高校で野球を続けることが特別なことではなくなった。その一方で女子プロ野球は様々な事情から活動休止となり、私たちの夢の舞台が突然なくなった。それでも選手たちが挑戦し続けた時代があったから、今の女子野球の広がりがあると信じている。
2019年に現役を引退して、海外での技術指導や用具支援を行う活動「こにたんプロジェクト」を続けている。女子野球が五輪種目になるには競技人口を増やすことが必要だという。「野球をやりたい女の子が当たり前に応援される環境を世界中に作ること。それが私の目指すゴールです」と語る。
元プロが中学生女子を指導
「たまに男子チームと試合することもある。体力で勝てないなら頭を使って勝負ですね」と田野倉利男さん(72)は話す。女子中学生クラブチームの監督を引き受けた時、男子と違う指導方法にしなければいけないと思った。男子なら、ひとつ上のレベルのことを教えようとなるけれど、女子は小学生の延長でいいのではと思っていた。
「僕の指導の考え方は、まず身体のバランスを見ます。打つ、投げる、走るという基本の動きが左右対称でない子は、上達が遅い。でもうちのクラブの1期生はそこができていた。男の子と同じような指導ができるレベルの子たちで、それにハマっちゃった」と振り返る。
女子を指導して野球観も変わった。練習で詰め込んでも試合ではなかなかできない。そこを突き詰め過ぎるとつらくなるから、ちょっと余裕を持たせる。野球も教えるけれど、まずは礼儀作法とか人との付き合いだとか、そういうところも男子とは違うアプローチになるという。
僕は現役時代は不器用だったので、色々な人に話を聞いたり、試したりしたことが、プラスになった。決して上手ではない子をそこそこのレベルまで持っていくことには自信があると話す。「エラーしても三振してもいいじゃないですか。いかに野球を楽しくやらせてあげられるか」と語る。
男子は中学生あたりからプロを夢見て、甲子園を目指すという流れがある。その分、余裕がないのか、やっていて楽しいのかって思うこともある。でも女子は男子と違ってあまり悲壮感がないという。
女子野球を広げるには、小学校の時の野球を思い出せばいい。がちがちではなく、野球が楽しくなるような雰囲気で指導をすれば競技者はもっと増える。エラーしても三振してもいい。僕は試合では絶対に怒らないです、と話す。
高校は女子硬式が増えている。うちのクラブも今春卒業した1期生16人のうち半数以上が硬式をやっている。「中学までは軟式でとことん基本をたたき込み、硬式でそれが開花すればいいですね」と語る。



