ラジオのプロ野球中継「ニッポン放送ショウアップナイター」が今年、放送開始から60周年を迎えた。数々の名場面を「言葉」と「音」だけで伝え続けてきた番組づくりの現場に密着した。
東京ドームでの生中継、15人体制で臨む
7月21日、東京・水道橋の東京ドームで巨人―広島戦が行われた。この日の番組制作には球場6人、本社を含め計15人程度が関わった。実況担当の小林玄葵アナウンサーは午後2時前には球場に到着。関係者への取材や各球場の情報の整理などが必要なため、早くから準備していた。
ベンチリポートなどを担う馬野雅行アナも午後5時頃に到着。ベンチ裏で広島の新井貴浩監督とすれ違い、気さくにあいさつを交わす姿から普段の取材力がうかがえる。ミキサーを務める斎藤一志は、球場各所に配置されたマイクを実況の内容に応じて即座に切り替え、放送の音をつかさどる。解説の宮本和知も到着し「頭の中に東京ドームが浮かぶように丁寧に表現したい」と抱負を語った。
スタメンが発表されると一気にブース内の熱気が高まる。マイクチェック、SNSへの投稿などをこなし、午後5時49分、寺尾真介ディレクターが「じゃあ今日も楽しくよろしくお願いします!」と号令をかけ、50分に放送が始まった。
試合展開とディレクターのこだわり
試合中は本社から届く「4試合13打席ぶりのヒット」などのメモを、寺尾ディレクターが取捨選択してアナウンサーに手渡していく。試合は初回から巨人が3点先制し、五回までに11得点の猛攻。終盤までに広島が5点を返すも、巨人が逃げ切った。
寺尾ディレクターは「『0・3歩』引いて全体を見ることを心がけている」という。前のめりになり過ぎず、でも冷めてはいない、そんな距離感で臨むからこそ、熱気と情報がバランス良く伝わるのだろう。
放送時間と今後の予定
放送時間は、火~土曜は午後5時50分から、日曜は同5時半から、いずれも試合終了まで。25日からは現在首位を争っている巨人の6連戦を中継する。28日からの阪神との3連戦では、岡田彰布、江本孟紀(28日)、鳥谷敬(29日)が解説を担う。
84歳宮田アナが語る60年の歩み
宮田統樹アナウンサー(84)は、1964年入社で今も現役。入社3年目に「ショウアップナイター」がスタートした。当時若手は、地方局向けの試合を担当し、巨人戦などの全国放送を実況できるまでに「10年は修業が必要だった」と語る。
解説陣とのコンビネーションは重要な要素だ。特に深沢弘アナウンサーと「元祖・二刀流」として活躍した関根潤三のコンビは有名で「分析が細かく見事な展開でした」と振り返る。宮田アナは関根から「ずいぶん鍛えられた」と笑う。例えば、スランプ中の投手が試合前に走り込んでいたことを紹介すると、「野球選手は誰でも走りますよ」。「ここは点がほしいところですね」と安易に振ると、「点はね、1000点でも万点でもほしいんですよ」とズバリ。「『もっと野球を勉強しないといけない』と思い、席を立ちたくなるときもありました」
印象に残っている実況は、69年、当時巨人だった金田正一投手が日本プロ野球史上唯一の通算「400勝」を達成した試合。前日に巨人は優勝を決めており、当日の試合を同局は中継していなかったが、「5回表に金田が登板した」という情報が入り、急きょ後楽園球場へ向かった。「最後セカンドゴロだったかな?『金田400勝達成です。金田うれしそう。金田うれしそう』。それだけしか言えなくて心残りもあるんですけどね」とほほえむ。
60年にわたって実況を担当してきたが、「うまくいったと思うような実況は一度もない」という。「これからも健康に気をつけ、楽しみながら、想像力をかきたてるような実況をしたい。後輩たちの実況を聞くのも楽しみのひとつです」



