2026年に開催される北中米ワールドカップ(W杯)は、史上初の3カ国共催となる。米国、カナダ、メキシコにまたがるこの大会は、サッカーファンにとって待望のイベントだが、現地で取材する記者たちにとっては厳しい戦いが待ち受けている。特に、歴史的な円安と初の試みである3カ国共催が、取材環境に大きな影響を与えている。ベテランサッカージャーナリストの元川悦子氏が、その実体験を語る。
宿泊費の高騰と節約術
元川氏は、米国テネシー州ナッシュビルに滞在中だ。宿泊先は1泊1万円程度のモーテルで、冷蔵庫や電子レンジが備え付けられており、便利に使っている。ナッシュビルSCのトレーニングセンターにも徒歩圏内で、交通費を節約できるのが助かるという。ただし、米国では「歩いて通う」という文化が乏しく、大きな道路に歩道や横断歩道がない場所も多く、歩きづらいことがある。それでも道づたいに何とか移動できている。
ダウンタウンのブロードウェイではカントリーミュージックの生演奏が楽しめるが、安いモーテルは治安面で不安が残る。外に出ると、通路や階段付近で喫煙する宿泊客が見られるが、違法薬物摂取が深刻な問題となっている米国では、そうした人物がいる可能性も否定できない。米国在住の知人からも「気をつけたほうがいい」と警告されており、仕事と買い物以外は外出を控えている。特に夜間は危険が増すため、細心の注意を払っている。銃社会の米国では、どんなトラブルに巻き込まれるかわからないからだ。
過去の襲撃体験と安全対策
今後、試合開催地のダラスやモンテレイなどへ移動する予定だが、世界中から観光客が押し寄せるため、混雑に伴う犯罪増加が懸念される。元川氏は、2014年のブラジルW杯でサルバドールを取材中、カメラマンと2人で歩いていたところ、3人組の黒人男性に襲撃された経験がある。逃げようとして海岸の崖から飛び降り、左ひじを強打。ひびが入り、現地の病院でギプスをはめられたという。
こうした被害を避けるため、明るい日中に行動するのが基本だ。夜間の移動が必要な場合は、複数人でウーバーやタクシーを利用するのが望ましい。元川氏は13日にダラスへ向かうが、細心の注意を払いながら行動する覚悟だ。
円安とインフレの影響
円安と米国のインフレが重なり、取材コストはかつてないほど高騰している。宿泊費だけでなく、食費や交通費も軒並み上昇。1ドル150円を超える為替レートは、日本のメディアにとって大きな負担だ。3カ国共催という大会の特殊性もあり、移動計画やビザ取得など、準備に追われる日々が続く。
元川氏は「選手だけでなく、私たち記者も厳しい戦いを強いられている」と語る。それでも、W杯という最高の舞台を伝えるために、安全とコストを両立させながら取材を続ける決意だ。



