深夜キックオフの悩み:観るべきか、寝るべきか
ワールドカップ期間中、深夜2時キックオフの試合を前に、「この試合だけは見たい」と思いながらも、夜更かししてそのまま観るか、一度寝て途中で起きるか、そして試合後にもう一度寝るべきか――誰もが一度は悩む“睡眠のジレンマ”です。体への負担を抑えつつ観戦を楽しむには、どのような睡眠の取り方が理想的なのでしょうか。今回は睡眠専門医の視点から、現実的に取り入れやすい工夫を解説します。
徹夜観戦のリスク:認知機能低下は飲酒運転並み
4年に1度の特別なイベントであるワールドカップ。深夜や早朝の試合を楽しみにしている方も多いでしょう。しかし、寝ずに観戦する「夜更かし(徹夜)」が体に与える影響は軽視できません。徹夜をすると、認知機能や判断力が著しく低下します。具体的には、その状態は飲酒運転で検挙されるレベルの血中アルコール濃度に匹敵すると言われています。特に感情や判断を司る前頭葉や、記憶に関わる側頭葉の働きが影響を受け、仕事の効率低下、感情のコントロール困難(イライラ)、物忘れの増加、運転中の事故リスク上昇などが生じやすくなります。しかも、これらの影響は自覚しにくいという危険性もあります。
分割睡眠のコツ:最初の睡眠は90分単位で
深夜試合を観戦する方法として、「一度寝てから起きる」分割睡眠を選ぶ方も多いでしょう。この方法は工夫次第で有効な選択肢となります。ポイントは、最初の睡眠を90分単位で確保することです。睡眠は浅い睡眠と深い睡眠を周期的に繰り返しており、浅い睡眠のタイミングで起きると比較的すっきり目覚めやすくなります。起床直後には、強い光を浴びる、顔を洗う、軽く体を動かすといった行動で覚醒を促しましょう。ただし、分割睡眠は体内時計に影響を与える可能性があるため、ワールドカップのような期間限定のイベント時に留めるのが望ましいです。
徹夜 vs 分割睡眠:医師が勧めるのは?
体への負担や翌日の過ごしやすさを考慮すると、一般的には徹夜よりも分割睡眠の方が望ましいと考えられます。人間の体内時計は深夜帯に強い眠気が生じるようできており、この時間帯に全く眠らないと注意力低下、判断ミス増加、強い眠気が顕著に現れます。一方、90分~3時間でも事前に睡眠をとることで脳や自律神経がある程度回復し、翌日の負担を軽減できます。ただし、分割睡眠でも合計睡眠時間が不足すれば疲労は残ります。重要なのは、短時間でも事前に眠ること、できれば後から補うこと、連日続けないことの3点です。
観戦後の二度寝:回復効果を最大化する方法
深夜試合観戦後に再び眠る「二度寝」は、体の回復に有効です。睡眠には疲労回復、記憶の整理、自律神経の調整など多くの役割があります。観戦後にそのまま起き続けると、集中力低下、頭痛、気分の不安定さ、日中の強い眠気などが起こりやすくなります。特に完全な徹夜状態は、体内時計への影響に加え、血圧や食欲に関わるホルモンにも悪影響を及ぼす可能性があります。観戦後に2~3時間でも再睡眠をとることで、眠気や疲労感の軽減が期待できます。効果的な二度寝のポイントは、観戦後すぐに寝床に入り、スマートフォンやハイライト動画を見続けないこと。強い光は脳を覚醒させ寝つきを悪くします。室温はやや涼しめ、照明は暗めの環境が理想的です。再睡眠は2~3時間でも回復効果がありますが、昼近くまで寝過ぎるとその日の夜の入眠に影響するため、起床後はカーテンを開けて日光を浴び、軽く体を動かして体内時計を整えましょう。
観戦後に眠れないときの対処法
白熱した試合後は興奮や緊張で交感神経が優位になり、寝つきが悪くなることがあります。特に延長戦やPK戦の後は「疲れているのに眠れない」状態になりがちです。そんな時は、観戦後にスマートフォンで情報を追い続けない、部屋の照明を落とす、深呼吸や軽いストレッチを行う、ぬるめのシャワーを浴びるなど、体を徐々に休息モードへ切り替えましょう。
カフェインの賢い使い方
観戦中の眠気対策としてコーヒーなどのカフェインは効果的ですが、注意が必要です。カフェインは眠気を引き起こす物質(アデノシン)の働きを抑えますが、摂取後30~60分で作用が強まり、体内から半分排出されるまでに4~6時間かかります。そのため、試合開始前から前半までにコーヒー1杯程度(カフェイン約100mg)に留めることで、眠気対策とその後の睡眠を両立しやすくなります。延長戦などで追加摂取を繰り返すと、試合後の入眠が難しくなるため避けましょう。
健康的にワールドカップを楽しむために
ワールドカップは4年に1度の祭典です。睡眠専門医としては規則正しい生活を推奨したいところですが、サッカーファンとして日本代表を応援したい気持ちはよく分かります。開催前は規則正しい生活で体調を整え、期間中は無理のない範囲で楽しみ、終了後は速やかに通常のリズムに戻すことが大切です。体調に配慮しながら、ワールドカップ観戦を存分に楽しんでください。
監修:後平泰信(医療法人徳洲会札幌もいわ徳洲会病院 病院長、虎の門病院睡眠呼吸器科非常勤医師)。本記事は「メディコレWEB」の認証を受けています。



