強豪の九州国際大付高(福岡)で昨年、主将を務めた三宅巧人さん(19)が、今秋、米国アリゾナ州の2年制大学へ進学する。日本の有力大学からも誘いを受けた逸材が、なぜ海外での挑戦を選んだのか。背景には父の一言と、元大リーガーのイチローさんの言葉があった。
三宅さんは高校3年の春頃、スポーツ推薦で野球の名門大学への進学を考えていた。しかし、父親は「大学はそうやって選ぶものか」と疑問を呈した。大学側に学部を指定されていたことに違和感を覚えたのだ。国立大出身の父親は「夢に向かって何を学ぶべきかを決め、(自分で)学部も選ぶものじゃないのか」と語った。その言葉に三宅さんは考え直した。
米国留学への転機
神奈川県出身の三宅さんは、U-12日本代表を経験し、高校では強打の内野手として1年夏から甲子園の土を踏んだ。プロ野球選手という目標に向け、強豪大学へ進むのは自然な選択だと思い込み、野球以外に目を向けていなかった。
しかし、高いレベルで野球をしつつ、ビジネスも学びたい、英会話も習得したいという思いから、米国留学を志すように。小学校で同じチームに所属し、東京の高校から米大リーグ・アスレチック傘下のチームへ進んだ1学年上の森井翔太郎さん(19)に相談すると、挑戦を後押しされ、留学支援の会社を紹介された。
業者を介して米国の大学へプレー動画を送ると、夏以降に複数校から誘いが届き、アリゾナ州の2年制大学を選択。奨学金の提示に加え、「リーグや学業のレベルが高い」ことが自身を高められる環境に思えた。日本のような学部ごとの入試はなく、4年制大学への編入も可能で、学びたい分野を自由に選べるのも魅力だった。
イチローさんの言葉
昨冬、野球部の指導で同高を訪れた元大リーガーのイチローさん(52)に、留学について尋ねる機会があった。「若い時にしかできない。文化も言葉も違い、苦労するけど、視野が広がる」という言葉に、身が引き締まった。
一方、留学には一定の英語力が必要。中学までは学業も両立させていたが、高校では夜まで練習に打ち込む日々で、そのレベルに達していなかった。部活動引退後、1日6~7時間の勉強を課し、今春に「TOEFL iBT」で65点をマーク。条件をクリアした。
増える日本人アスリートの米国留学
近年、バスケットボールの渡辺雄太(31)がジョージ・ワシントン大、陸上のサニブラウン・ハキーム(27)はフロリダ大、野球の佐々木麟太郎(21)がスタンフォード大へ進学。各競技のトップレベルの高校生が米国へ渡る傾向が強まっている。全米大学体育協会(NCAA)の資料によると、トップカテゴリーの大学に所属する日本の留学生は2016~17年の68人から、21~22年は155人に増えた。
高い競技力、充実した練習施設、学業重視の方針に加え、学生がスポンサー契約を結ぶ制度(NIL)が数年前から認められ、プロのように億単位の報酬を得ることも可能になった。三宅さんもそんな環境に魅力を感じる一人だ。
「(森井や佐々木の前例がなければ)米国に行くという発想もなかった」と語る。米国の学生アスリートは原則、一定の成績を義務づけられ、ボランティア活動なども求められ、野球に専念というわけにはいかないが、「可能性が広がる。野球に生きるかもしれないし、違う道が開けるかもしれない」と前向きだ。
目指すのは日米を問わず、ドラフト会議で指名される選手。「高校時代はやりきったし、悔いはない。ここから一生懸命、野球も勉強もして、選んだ道を正解にしたい」。期待を胸に新たな一歩を踏み出す。
識者「日本も人材育成の原点に」
日本人アスリートが米国の大学を目指す傾向について、米国の大学スポーツに詳しい追手門学院大の吉田良治客員教授(スポーツマネジメント)は、スタンフォード大から直接、米大リーグ入りした佐々木麟太郎選手のインパクトは大きく、同様の道を目指す日本のトップ選手は増えるのではないかと指摘する。
米国の大学は卒業後、社会で即戦力となる人材を育てている。学業に力を入れるのはそのためで、昨年、男子サッカーで全米制覇したワシントン大のメンバーの平均GPA(成績評価値、一般的に最高4)はおよそ3.5。佐々木選手も1年目に(学業、競技優秀選手として)リーグ表彰を受けた。高いレベルで文武両道を実践できる環境だ。
日本も「スポーツに打ち込めばいい」という時代ではない。大学側が人材育成という原点に立ち返り、学生に魅力を打ち出さなければ、人材が米国へ渡る流れが加速することになると警鐘を鳴らす。



