第108回全国高校野球選手権大会で、奈良代表の天理が2017年以来となる4強入りを果たした。藤原忠理監督が「昨年に比べて体も大きくなく、目立った選手はいない」と評したチームだったが、聖地で投打ともに充実した戦いを見せた。
「守り勝つ野球」への転換
昨夏は初戦敗退ながら、今夏は躍進を遂げた。要因の一つに、藤原監督が掲げる「守り勝つ野球」の浸透が挙げられる。指揮官は天理大などでの指導経験があり、木製バットを使い、好投手が多い中で守りを重視してきた。2024年に天理高の監督に就任。その年は高校野球に低反発バットが導入された年だった。そこで、藤原監督はこれまでの指導を生かし、低反発バットに対応するため、伝統だった「強打の天理」から、守備から流れを作って攻撃につなげる「守り勝つ野球」にシフトチェンジした。
甲子園での象徴的なプレー
甲子園ではそれを体現した象徴的なプレーがあった。高川学園戦。七回に中堅に抜けそうな打球を、遊撃手の金本相有主将(3年)が横っ跳び。捕球してすぐさま二塁にトスし、一塁走者をアウトに仕留めた。三重戦。七回に抜ければ2点差を縮められる可能性があった中堅方向への強烈なゴロに、二塁手の田畑龍二選手(同)が滑り込んだ。グラブに収め、遊撃手にトスし、二塁で一塁走者をアウト。いずれも甲子園は歓声に包まれた。チームは直後の攻撃で得点し、勝利をたぐり寄せた。金本主将は「自分たちは守備のチーム。良い流れを持ってこれた」と振り返る。
この夏、4試合で計6失点。1イニングでの最大失点は福山戦の2失点。それを除けば1失点と、大崩れしない投球が攻撃への流れを作った。守りで天理の屋台骨となったのは、右腕・長尾亮大投手と左腕・橋本桜佑投手(ともに3年)。長尾投手は140キロ超の直球とスライダーを武器に試合を作り、登板した3試合で完投した。橋本投手は出どころの見えにくい横手投げから、動きのある直球や落ちる変化球で、三重に完封勝利。2人は昨夏の鳴門(徳島)戦で登板。チームは敗れたが、悔しさを糧にこの1年で成長を遂げた。
攻撃では、藤原監督いわく「彼の一振りでチームの雰囲気が変わる」という4番・金本主将が牽引した。ここぞの場面で、2本の本塁打は勢いをもたらした。上位から下位まで切れ目のない打線も光った。準々決勝までの3試合は全て2桁安打。福山戦で3連打など打者一巡の攻撃で4得点し、高川学園戦では3点を追う六回、中軸の3連打含む6連続出塁などで一挙4得点して逆転した。奈良大会準々決勝からスタメンをつかみとった1番で指名打者の山中喜晴選手(3年)は、甲子園でも高川学園戦で犠飛や適時打など3打点を挙げ、活躍した。7番の大塚弘登選手(同)は準決勝以外は安打、打点を挙げ、チームトップの打率5割4分超をマークし、つながりを生んだ。
新たな伝統と今後
「甲子園出場すら危うい」。チーム始動時、周囲にそう言われた世代が甲子園での頂点を目指した球児たちの中で「二番目に長い夏」を終えた。藤原監督は「『守り勝つ野球』という天理の新たな伝統を作ることができた。やってきたことは間違いではなかった」と、この夏の手応えを語る。
新チームには中軸を担った永井仁之丞選手や関村偉千陽選手、3年生投手をリードした小沢典弘捕手という2年生が残る。29日からは、来春の選抜大会出場校の選考資料となる近畿大会の県予選が始まった。確かな自信と経験を得た天理ナイン。今後の戦いぶりに期待したい。



