地震や豪雨などの災害時、被災者が避難所の体育館などで雑魚寝する様子が報じられ、SNS上で議論になることがある。しかし、全ての被災者が避難所に身を寄せるわけではない。在宅避難や車中泊をする被災者も多く、避難所という「場所」ではなく、被災した「人」への直接的な支援への転換が求められている。防災や復興政策を研究する大阪公立大大学院文学研究科の菅野拓准教授(44)に、被災者支援のあり方や自治体の役割を聞いた。
避難所運営に集中する議論の問題点
――災害が起きると、避難所の環境が問題になります
「もちろん、避難所の環境は改善しなければなりません。ただ、避難所運営だけに議論が集中すること自体が問題です。7月の令和8年熊本地震。在宅避難や車中泊をしている被災者が多くいます。高齢者が体育館の床で寝られるでしょうか。女性や、高校生くらいの娘さんがいる家庭なら、車中泊を選ぶでしょう。ところが避難所に支援が集中すると、そこにいない人への支援が後回しになってしまう。大事なのは『避難所をどうするか』ではなく、『被災した人をどう支えるか』という視点です」
繰り返される「ラストワンマイル問題」
――7月の熊本地震では、被災者支援を巡ってどのような問題が起きていたのでしょうか
「支援拠点までは物資が届いても、そこから被災者のもとに届かない『ラストワンマイル問題』という問題があります。平成28年の熊本地震に続いて、今回も起きました」
――なぜ、繰り返されたのでしょうか
「依然として、災害対応の多くを被災した市町村に任せていることが大きな原因です。市町村自体も被災している中で、避難所運営や物資の配送など、普段は経験しない仕事まで集中すれば、対応が追いつかなくなるのは当然です」
都道府県と民間が担うべき役割
――被災した自治体の役割を、どう見直すべきでしょうか
「たまにしか起きない災害対応のノウハウは、市町村には十分にありません。都道府県レベルになってやっと、防災専門職などを置くことができます。少なくとも、発災から3日目以降の避難所運営や物資の配送など、市町村が慣れていない事務は、マンパワーのある都道府県が民間とも連携して担う仕組みにすべきです」
――なるほど。都道府県が一定の事務負担を引き受けるのですね
「そうです。市町村には平時から生活困窮者の支援などを多くの機関と連携しながら行っており、都道府県よりも住民に身近な存在です。住民の情報を共有しながら支援体制を組んでいくことは、市町村にしかできません。都道府県と市町村、それぞれの強みを生かすことができる仕組みを整えるべきです」
民間の専門性を生かす仕組み
――民間の力はどのように生かせますか
「民間には、行政にはない専門性があります。例えばイタリアでは、NGOや職能ボランティアが、災害時に専門性を生かして活動するという仕組みがあります。水道工事の専門家なら水道管の工事を担い、料理人なら避難所などで調理を担当する。普段から専門的な仕事をしている人が、その技能を災害時にも生かすわけです。国が活動にかかる費用を負担したり、災害支援に従事する間の休業補償を支出したりする仕組みもあります。日本にとっても参考になりますね」(聞き手 高田和彦)
◇すがの・たく 大阪府出身。京都大農学部を卒業し、同大大学院農学研究科修士課程修了。大阪市立大大学院文学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(文学)。野村総合研究所や「人と防災未来センター」(神戸市中央区)などで勤務した。令和3年、大阪市立大(現大阪公立大)大学院文学研究科人間行動学専攻准教授。平成23年に発生した東日本大震災では大学院を1年休学し被災地支援に従事した。内閣官房「防災庁設置準備アドバイザー会議」専門委員などを務める。「仕事か家事しかしていない」というほど多忙な日々を送るが、ふとした合間の息抜きは映画鑑賞。SFや任俠(にんきょう)、インド映画まで幅広く鑑賞するという。