生活保護世帯で家族の介護を担う「ヤングケアラー」だった清野孝弥氏が、塾に通わずに東京大学へ現役合格を果たした。その背景には、答えの出ない状況に耐える「ネガティブ・ケイパビリティ」の力があったと、一般財団法人ドラゴン桜財団代表理事でドラゴン桜2編集担当の西岡壱誠氏が分析する。
「天才」だけでは説明できない合格の理由
西岡氏は、清野氏の合格について「本当にすごい話」としつつも、「天才だったんじゃないの?」と考える人もいるかもしれないと指摘する。その見立てとして、清野氏は間違いなく地頭の良い青年である一方、「それだけでは絶対にない」と述べる。
ドラゴン桜的な受験を成功させる人たちには共通点があるといい、それが「足りないからこそ考える」というネガティブ・ケイパビリティの力だという。
ネガティブ・ケイパビリティとは何か
ネガティブ・ケイパビリティは、19世紀のイギリスの詩人ジョン・キーツが兄弟宛ての手紙で使った言葉だ。日本語に訳すなら、「答えの出ない、どうにも解決しようのない事態に耐える力」「不確実さや、わからなさ、宙ぶらりんの状態のまま、性急に結論に飛びつかず、そこに踏みとどまる力」といったところ。日本では精神科医の帚木蓬生氏が紹介したことで知られるようになった概念だ。
一般的には「問題を早く解決する力」=ポジティブ・ケイパビリティが重視され、学校のテストや仕事も「早く正解にたどり着く力」で評価される。しかし人生には、すぐには答えの出ない問題が多くある。
- 家族の病気は、いつ治るのかわからない
- 貧しさから抜け出せる日が、本当に来るのかわからない
- こんなに勉強して、東大に受かる保証は、どこにもない
こうした「わからなさ」に押しつぶされず、わからないまま、それでも歩き続けられる力がネガティブ・ケイパビリティだと西岡氏は説明する。
清野氏は「ネガティブ・ケイパビリティの塊」
清野氏の人生を振り返ると、彼はまさにこの力で受験期を生き延びた人だと西岡氏は感じるという。家族はいつ壊れるかわからない、母親の症状がいつ悪化するかわからない、生活保護世帯から東大に行けるのかもわからない。共通テスト本番でE判定を突きつけられたときですら、彼はすぐに「じゃあ諦めよう」とも「絶対受かる!」とも決めつけず、わからないままの状態にじっと踏みとどまったという。



