探究学習で身に付く三つのスキルが「生きる力」を育む方法
探究学習で身に付く三つのスキルが生きる力を育む

高校の必修科目となり、一段と注目される探究学習。適切な探究学習の在り方について、探究学習支援を行うPEN言語教育サービスの代表、田中茂範さんと、コアネット教育総合研究所の福本雅俊さんが語り合いました。

探究の学習効果を左右する「ガイド」の在り方

福本:探究が注目されている今の状況をどう見ていますか。

田中:探究学習は、新学習指導要領が重視する「主体的・対話的で深い学び」そのものと言えます。「総合的な探究の時間」が高校の必修科目になった2022年頃にいろいろと相談を受けましたが、ほとんどの学校が手探り状態でした。

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福本:私立の中高一貫校では必修科目になる前から、探究学習の要素を授業や課外活動に取り入れる学校が見られました。

田中:確かに、探究は私立校が試行錯誤しながらも先導してきたかたちですね。ただ、当時はまだ探究がよく理解されていないこともあって、教員の間でも賛否両論。「それをやって学力が上がるのか」という声もありました。探究の学習効果の研究は日本にはないのですが、海外にはたくさんあります。主要な論文はどれも探究、すなわち課題解決型の学習は学力向上にもつながると結論付けています。ここで言う学力は、目的達成のための思考力や創造的な思考力などです。それらを、21世紀を生きていくうえで不可欠なスキルだとしています。

福本:探究が取り入れられた背景には、社会構造や社会課題の複雑化があります。従来の知識とその応用だけでは、それらに対処しきれない。だから、正解のない課題に立ち向かう力が必要になると。

田中:1996年の中央教育審議会答申にある言葉、「生きる力」がその象徴です。自ら考え、判断し、行動する力を育む。そのため重要なのは「学び方を学ぶ」こと。そこに探究の本質があります。

福本:探究のパターンはさまざまですが、テーマ設定や進め方を生徒任せにする例と、テーマや進め方の枠組みを決めてやる例が見られます。いわば放任型と管理型ですが、そこが少し気になります。

田中:先に触れた探究の研究では、極端な放任型も管理型も好ましくないとしています。大切なのは実施者の関わり方、論文では「ガイド」という言葉を使っていますが、いわゆるナビゲーション、方向付けですね。これをしっかりやるかどうかが効果に影響すると述べています。

福本:受験勉強をして一貫校に入学する子は、正解を求める問題を解くのには慣れています。その子たちに「自由なテーマで」と言っても戸惑うばかりでしょうし、逆に枠組みや手順がしっかりと決められていると、探究本来のよさが損なわれる恐れが多分にあります。

日常の身近な「なぜ?」から「問い」を起こしていく方法

田中:私は教師向けに探究学習の支援を行うほか、授業のプログラムや教材づくり、授業の実践も手掛けています。最初の授業でやるのは、探究とは何かを生徒に理解してもらうことです。教科の授業と探究の違いですね。そのときに教材とフローシートも使います。教材は、探究授業で行うディスカッション、リサーチ、プレゼンテーションの仕方を解説したもの。フローシートは、テーマについて考えていく流れを示したものです。そうして1学期間はフィールドワークなども交え、急がずに学習の方向付けをします。

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福本:探究は「自ら問い(仮説)を立て検証する」学びだとよく言われます。しかし、探究に慣れていない生徒たちには「問いを立てる」こと自体がかなり難しいことのように思えるのですが。

田中:まず、身近な疑問からスタートするのがいいと思います。私は「普段『あれっ?』と、気になることを書き出してみよう」とよく生徒たちに言います。例えば、ゲームにはまるのはなぜか。

福本:おそらく最初は、ゲームにはまるのは「面白いから」という単純な答えが返ってくるのでしょうね。

田中:そこから一歩進めて、その面白さはどこから来るのかを考えてもらう。すると、問いが形になります。しかも問いは、立て方次第で探究の対象が枝分かれしていきます。例えば、地域の生物多様性を題材としたときに、「川の魚が少なくなった」という現象があったとします。水質など環境の変化に原因を求めるのがストレートな疑問の持ち方ですが、魚の減少が生活にどう影響するかという視点もありますね。生徒たちの興味・関心もそれぞれに異なりますから、どう枝分かれするかを想定しておくことや、問いとして何が飛び出してきても受容する姿勢を、私は実践者として大切にしています。

福本:先ほど言われた「身近なところから問いを起こす」ことが、探究では大切だと私も思います。例えば、気候変動やSDGsのような地球規模の課題は、自分の暮らしに落とし込まないと、なかなか自分事としてとらえられません。

田中:私が探究の学習プログラムをつくるときも、学校の立地や周辺の地域性などを考慮します。例えば「地域活性化」を題材にしたとして、その地域が都市部の街なら商店街の再生が課題として浮かぶでしょうけれど、郊外の街ならば課題は農業の維持かもしれません。

福本:自分のいる場所、足元から考えることは理解しやすい。

田中:それがグローバルな課題ともつながります。先の商店街の再生も農業の維持も、背景には少子高齢化の問題があります。これは先進国にも共通する社会課題ですし、農業を考えれば循環型社会の形成という課題も見えてくる。視点、視座の置き方で、ものの見え方が変わることを知るのも探究の要点です。

探究と教科の授業の関係も学校選びのポイント

福本:文部科学省は、探究を「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」を1サイクルとして、それを繰り返してスパイラル状に進展させるイメージで示しています。

田中:探究は、そのスパイラル状の繰り返しがあってこそ、深まっていく学びです。そして、探究で身に付くのは、ディスカッション、リサーチ、プレゼンテーションの三つのスキルで、それは生涯にわたって役立つものです。ですから、中学校から、あるいは小学校からこういう学びに触れてほしいですね。ただ、課題もあります。探究の進め方は示されていますが、実施者となる教員間で共有できる具体的な手法・手順がまだ整っていません。私はそれを「探究メソッド」として独自につくりましたが、学校内では教員たちが自校に合ったメソッドをつくり、共有することが大切だと思います。

福本:それに探究学習の手法は、教科学習への応用が利き、それによる相乗効果も期待できると思います。その点では教科学習に探究がどう取り入れられているかも、一貫校を見ていくときの尺度になると思います。探究は、生徒と学校が校外とつながりながら学ぶ貴重な社会体験の機会でもあります。今後もそのありようを注視していこうと思います。