東京のオフィス街で、窓辺にサバの頭が置き土産として残される——そんな出来事が象徴するように、都心ではカラスと人間の「共同生活」が続いている。動物行動学者で東京大学総合研究博物館特任准教授の松原始氏は、ゴミを漁るカラスの生態と人間の対策のいたちごっこを解説する。
ゴミネット普及でカラスの密度が低下した背景
松原氏によれば、ゴミネットを導入してもカラスは「消え失せる」わけではない。ネットを利用するマンションに狙いを変え、餌を漁り続ける。20年前、実家の周辺でネットかけが普及し始めた際も、カラスは行動圏をずらしてネットのないゴミ置き場を狙い続けた。
そしてすべてのゴミ置き場にネットが導入されると、カラスはそれまで放浪した範囲すべてを行動圏に含めてしまった。日によってガードの甘いゴミ置き場が一箇所くらいはあるからだ。逆に言えば、以前より広い範囲を確保しないと生きていけなくなり、結果としてカラスの密度は低下した。
環境収容力と駆除の皮肉な関係
これは環境収容力(キャリング・キャパシティ)と呼ばれる概念だ。その環境がどれだけの個体数を受け入れられるかを示すもので、餌量や営巣場所などの資源によって決まる。東京のカラスの場合、大量に供給されていた餌が収容力を押し上げていたと考えられる。
環境収容力をそのままにカラスを駆除しても、他所から個体が入ってくるか、その年に生まれた若鳥が生き残って埋め合わせてしまう。東京都は最大で年間1万8000羽ほども駆除していたが、年間の減少数はもっと少ない。02年と03年の間で1万2000羽ほど減ったことはあるが、他は2000~3000羽、増加した年まである。
計算が合わない理由の一つは、駆除しても東京が住みやすければ他所から入ってしまうからだ。人間は自然環境を改変し多くの生物を減らしてきたが、カラスに対しては意識しないまま莫大な餌資源を与えて環境収容力を高止まりにしながら、「カラスが増えすぎたから減らそう」と言っている。松原氏は「なかなかに皮肉の効いた話だ」と指摘する。



