いつも購入している牛乳がスーパーマーケットの棚から消えている——日常の買い物で、誰もが一度は経験したことがあるだろう。こうした経験は、小売業が長らく解決できていない課題の表れでもある。
前回の記事では、小売業の現場で「事前注文」が広がると商品が「必ずある」と「新鮮なまま」を両立させる難しさが生まれることを説明した。今回は「必ずある」に注目する。
顧客が求める商品の在庫を切らさないこと——。当たり前のようでいて、実現できていない店舗も多い。そして、在庫が切れてしまう要因の一つは、日々当たり前のように実施している「発注」という行為そのものにある。
なぜ商品は「欠品」するのか?発注に潜む落とし穴
発注とは、担当者が「これからどれだけ売れるか」を予測し、その数量を先回りして注文する行為だ。多く見積もれば余り、少なく見積もれば不足する。欠品と過剰は別々の失敗ではなく、「予測」という一つの行為から生じる表裏一体の問題である。
しかも厄介なことに、定番商品ほど切れたときの痛手は大きい。目当ての品がなければ、客は別の商品で代用するか、あるいは購入せずに他店へ向かう。一度「あの店はときどき商品を切らしている」と思われれば、来店の理由そのものが減る。定番商品は、その店を訪れる動機の中心にあるからだ。
この課題に、小売業はどう向き合えばいいのか。
「予測」から「補充」へ——発想の転換
対策の一つが、需要予測だけに頼って発注するのではなく、実際の販売状況に応じて補充する仕組みである。商品が売れて在庫が減れば、その実績に応じて補充する。先に読んで積み上げるのではなく、売れたという事実に反応して埋める手法だ。前回の記事でも触れたトヨタ式ジャストインタイムにも、必要なものを必要なときに必要な量だけ動かすという、共通する考え方がある。
需要を先読みして店舗側が数量を決める「発注」から、販売実績に応じて在庫を補う「補充」へ。こうした発想の転換が、定番商品を切らさない仕組みの出発点になる。
「誰が補充するか」で変わる、小売りの在庫管理
ここで、その補充を誰が担うのかという問いが生じる。
各店舗が補充を担うとは限らない。売れた分を補充するのであれば、その商品の需要を最も把握できる主体が担うのが合理的だ。店舗か、卸か、それともメーカーか——この問いに対して、世界はいくつかの答えを示し始めている。
中国のあるスーパーマーケットの利用者から聞いた話がある。その人は毎回、同じヨーグルトを購入する。アプリ経由で購入するため、購買の履歴が蓄積される。そのヨーグルトを購入してから一定期間がたつと、次の購入を促す通知がアプリに届く。店舗に足を運んで購入することもあれば、配送を依頼することもある。いずれにせよ「いつもの商品」が手元から切れることがない。
これは、その人にとっての定番商品を、購買履歴という需要の裏付けに基づいて再購入につなげている状態だ。従来のように「店舗が売れ行きを予測して発注する」のではなく、個人の購買実績を起点に次の購入が促されている。
日本では、すべての商品を個別配送することは物流コストの面から難しい。そこで、店舗を「商品を受け取る場所」として生かしながら、購買履歴や販売データを使って定番商品を切らさない仕組みをどう構築するかが問われる。
「発注するのは小売り」の常識を変えた、ウォルマートとP&G
関連記事でも触れられているように、製造業の生産管理法として知られる「トヨタ式ジャストインタイム」の考え方が、今、食品小売業でも重要性を増している。セブン-イレブンやマクドナルドの取り組みをもとに「予測して作る」から「需要に合わせて作る」への転換が考えられる。
ウォルマートとP&Gは、従来の「発注するのは小売り」という常識を変えた先駆けである。両社は共同で在庫管理システムを構築し、P&Gがウォルマートの販売データを直接参照して補充を行う仕組みを導入した。これにより、欠品を減らしつつ在庫の最適化を実現した。
このように、需要予測に頼らず、販売実績に基づいて補充する「3つのやめる」(予測発注をやめる、店舗任せの発注をやめる、在庫を持ちすぎることをやめる)が、小売りの在庫管理を変えつつある。



