1987年5月3日、朝日新聞阪神支局(兵庫県西宮市)に目出し帽の男が侵入し、散弾銃を発砲して記者2人を殺傷した事件で、当時支局の記者として現場に居合わせ、現在唯一の目撃者となっている社員が、16日付で定年退職した。その社員は、ブランド企画部の高山顕治主査(64)である。
事件の概要と高山氏の立場
事件では、支局員の小尻知博記者(当時29)が殺害され、犬飼兵衛記者(当時42)が重傷を負った。当時25歳だった高山主査は2人のそばにいたが、けがはなかった。警察が捜査を続けたが、事件は未解決のまま2002年に公訴時効を迎えた。犬飼記者は退職後の2018年に亡くなっている。
高山主査は退職にあたり、「未解決の状態で社を去るのは残念。犯人には、なぜ阪神支局を襲ったのか、なぜ2人を撃ったのかを聞きたい。理由がわからないことがずっと引っかかっている」と、事件後から変わらぬ胸の内を語った。
目撃者としての悔い
また、現場に居合わせた者として、目出し帽と銃以外に犯人の特徴を詳しく証言できなかったことを今も悔やんでいるといい、「もっとちゃんと犯人の姿を見ていれば、もっと手がかりがあっただろう」と述べた。
言論を取り巻く状況については、目出し帽の男の襲撃も、SNS上の匿名での誹謗中傷も「陰に隠れて攻撃している」と批判し、「現在は心を強く持たないと簡単に折れてしまう時代。おかしいことはおかしい、とみんなが言える社会であってほしい」と語った。
赤報隊事件の連鎖と時効
事件は来年5月3日に発生から40年を迎える。事件後に通信社に届いた「赤報隊」を名乗る犯行声明文には、「すべての朝日社員に死刑を言いわたす」「反日分子には極刑あるのみ」などと記されていた。赤報隊を名乗る事件は、東京本社銃撃(1987年1月)、名古屋本社寮襲撃(1987年9月)、静岡支局爆破未遂(1988年3月)など計8件。警察庁は一連の事件を「広域重要指定116号事件」として捜査を続けたが、いずれも未解決のまま、2003年3月までに公訴時効を迎えた。
高山主査の退職により、事件の記憶を直接語れる人物はさらに減ることになる。彼の「なぜ」という問いは、今もなお答えを得られず、言論の自由と暴力の関係について社会に問いかけ続けている。



