「休業代行」がSNSで話題を集めている。労働者本人に代わり、弁護士や代行業者が休業の手続きを進めるこのサービスについて、賛否両論が巻き起こっている。ITmediaは、弁護士の桐島みのり氏に法的な観点から見た問題点や企業の対応策を聞いた。
休業代行の法的リスクとは
そもそも休業は、労働基準法などで規定されている制度ではない。休業制度を設けるか否か、設ける場合の休業期間の長さや休業期間中の賃金、勤続年数への算入などは各社の判断に委ねられている。休業制度を設ける場合は、労働条件の一つとして就業規則などに明記することが求められる(労働基準法15条、同施行規則5条11号)。
一般的に、休業の申し出は休業の当事者である労働者本人が行うべきものだ。休業の申し出があった場合、企業はまず労働者との面談を実施し、主治医が作成した診断書の提出を求めることが多い。労働者の現状が、就業規則に定められた休業できる条件を満たしているかどうか審査する必要があるからだ。
また、休業が認められる場合でも、職場復帰できるのがいつ頃になりそうか目処を付けるため、必要な療養期間の見込みを記載した診断書の提出を求めることもある。診断書の内容が不十分であれば、企業が労働者本人の同意のもと、主治医から直接話を聞いたり、労働者に主治医とは別に産業医の受診を求めたりすることもある。
このほか、休業の条件を満たしているかどうかや休業期間中の処遇などについて、就業規則の解釈が必要となることがある。その場合は、労働者側と企業で協議する。さらに、労働者の状況にもよるが、業務に支障が出ないようにするため、休業期間に入るまでの間に、簡単な引き継ぎを求められることもあり得る。
このように、休業の申し出から休業に至るまでの間に、企業は労働者本人と一定のやりとりが必要になる。
休業代行サービスの法的問題点
しかし、労働者が心身ともに疲れ果て、休業の申し出をすること自体が困難だったり、企業と直接やりとりして手続きを進めることさえ困難だったりする場合、労働者本人に代わって、休業の意向を伝えたり、休業に向けた手続きを進めたりする「休業代行サービス」を利用することも考えられる。
なお、休業期間に入った後も、企業から「休業中に必要な情報の定期的な提供」「気軽に相談できる窓口の案内」といった連絡がある可能性がある。病気や職場復帰の意向を確認するため、1カ月に一回程度、報告書の提出を求める企業も多い。もちろん、こうした報告書は、休業中の労働者の負担にならないよう、書式や頻度が工夫されるべきものだ。ただ、労働者側は休業後も企業との連絡が一切なくなるわけではないことは理解しておこう。
桐島弁護士は、休業代行サービスの法的な問題点について指摘する。弁護士法72条は、弁護士や弁護士法人でない者が報酬を得る目的で「法律事務」を取り扱うことを禁じている。休業の意向を企業に伝えることだけなら「法律事務」に当たらないと考えられるが、休業に向けて就業規則を解釈したり、企業と協議したりすることは「法律事務」に当たり、弁護士でなければできない。
したがって、弁護士以外の休業代行業者が、休業に向けて協議することは弁護士法違反に該当する可能性があり、休業代行業者の行為が無効となる場合も考えられる。こうした状況を受け、「民間の代行業者からの休業の申し出については断る」という運用をしている企業も増えてきている。
代行業者から連絡があった場合の企業の対応
代行業者から「◯◯さんの休業を代理で申請します」と突然連絡があった場合、企業はまずどのように対応すべきか。桐島弁護士は、まず連絡してきた相手がどのような者であるかを確認すべきだと述べる。弁護士であれば、依頼者の代理人として、労働者本人の代わりにあらゆる協議が可能なので、手順に従って休業手続きを進めることになる。
弁護士資格のない民間業者の場合、前述のように弁護士法違反のリスクがあるため、休業の申し出を断ることも一つの方法だ。その場合には、労働者に直接連絡し、企業の方針を説明したり、今後の進め方について相談したりすることになるだろう。
なお、労働組合法上の労働組合には、憲法28条で定められた団体交渉権がある。そのため、労働組合法の要件を満たす労働組合が運営する代行サービスの場合は協議が可能であり、企業としては、その業者を相手に休業手続きを進めることになるだろう。
「本人や家族への直接連絡は一切禁止」と代行業者から連絡があった場合
代行業者から「本人や家族への直接連絡は一切禁止します」と連絡された場合、企業が業務の引き継ぎや安否確認のために本人に直接連絡を取ることは、法律上の問題があるか。桐島弁護士は、弁護士が代理人となった場合、労働者本人との直接協議は避け、弁護士とやりとりするようにすべきだと助言する。業務の引き継ぎなど、労働者と直接やりとりしたい場合には、弁護士にその旨を伝え、弁護士を介して労働者本人の同意を得た上で連絡するようにするのが良い。
なお、弁護士職務基本規定では「弁護士は、相手方が資格を有する代理人を選任したときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならない」との定めがある。
不適切な対応が続いた場合の懲戒処分の可能性
代行業者から「体調不良のため休む」とだけ告げられ、医師の診断書が提出されないなど適切な対応がなされない場合、企業はこれを「無断欠勤」として扱い、就業規則に基づき懲戒処分を検討することは可能か。桐島弁護士は、企業は就業規則に基づき、休業を認めるか否か判断する必要があると述べる。判断要素の一つとして医師の診断を要求することは、雇用関係における信頼ないし公平の観点から見て合理的かつ相当な措置であるので、従業員にはこれに応じる義務があると考えられている。
したがって、特に理由を説明することなく診断書の提出を拒むなど、適切な対応がなされない場合、企業は「無断欠勤」として扱えるだろう。無断欠勤の回数や期間を踏まえ、企業の規定に基づき、懲戒処分を検討することは可能だ。その際は、けん責処分など軽い懲戒処分を下し、労働者に改善の機会を与え、それでも改善が見られない場合に、段階を踏みながらより重い懲戒処分を検討するのが良い。改善の可能性がないような事案では、懲戒解雇処分が認められることもある。
予防規定と手続きのルールを就業規則に盛り込むべき
今後、休業代行の利用による突然の離職を防ぐ、あるいは起きた際に対処しやすくするために、企業は就業規則にどのような「予防規定」や「手続きのルール」を盛り込んでおくべきか。桐島弁護士は、企業には労働者の生命や健康が損なわれることのないよう、安全を確保する義務、いわゆる「安全配慮義務」があると指摘する。そのため、労働者が心身の健康を害し、業務を続けさせるとさらに健康の悪化につながるような場合には、休養させたり、他の業務に配転したりすることが必要であり、休業制度を設けている企業であれば、休業も選択肢の一つになる。
労働者側からの休業の申し出は、企業からすると突然なされたように感じることも少なくないが、安全配慮義務の観点から、適切に対応する必要がある。弁護士法違反の恐れのある代行業者を利用した休業の申し出に対して、企業がどのように対応するか、事前に方針を決め、労働者側に周知しておくことは、トラブルを未然に防止することにつながる。



