和歌山県北山村は5月、筏(いかだ)文化を保全・研究する「国際筏協会」(本部・ドイツ)にアジアの国として初めて加盟した。欧州の筏流しはユネスコの無形文化遺産に登録されており、村は「伝統技術を世界に発信するチャンス」と意気込む。
伝統の筏流し、欧州では無形文化遺産に
筏流しは、河川や湖を利用して木材を都市に輸送する技術で、中世以降に発達したが、徐々に陸上輸送に置き換わった。欧州では1991年、伝統を受け継ぐ各地の団体や個人が協会を設立。現在、15か国の団体・個人が加盟し、傘下に約8500人の筏師がいる。
欧州の筏流しは2022年、ドイツ、オーストリア、チェコ、ポーランド、スペイン、ラトビアの6か国による共同登録の形式でユネスコの無形文化遺産となった。
国内で唯一の伝統継承、観光筏下りとして復活
国内でもかつて、埼玉県の山間部から荒川を通じて東京・新木場に送るルートや、木曽川上流の長野・岐阜県境から運ぶルート、京都府丹波地方から保津川で輸送するルートなどがあったが、1960年代にかけて姿を消した。
北山村は良質の杉の産地で、北山川、熊野川を使って集積地の和歌山県新宮市に運んでいた。63年に途絶えたが、79年に「観光筏下り」として復活させ、全国で唯一、伝統を再現して運航する事例とされる。現在は見習生2人を含む20~60歳代の筏師16人が携わる。
村職員の働きかけで加盟実現
村職員として観光振興を担当する太田美穂さん(40)は2年ほど前、欧州の筏流しが無形文化遺産になっていると知り、感銘を受けた。国際筏協会のフランク・ティール会長にメールで交流を打診すると、昨年12月、快諾された。
情報交換を重ね、村は協会への加盟について相談。今年5月、ラトビアで開かれた総会で、村の取り組みが「国内で唯一、伝統的な筏流しを継承している」などと評価され、加盟が了承された。
太田さんはオンラインで総会に参加。ティール会長から「日本の筏流しがなぜ国の無形民俗文化財になっていないのか、不思議だ」と言われ、「村の伝統を世界に発信したい思いが強まった」という。
協会へのメール取材によると、総会の後、欧州の若手筏師たちが北山村の事例に関心を示し、村での研修プログラムの実施を希望する声も上がったという。
泉清久村長は「小さな村の伝統が国際的に評価され、大変喜んでいる。協会関係者や筏師との交流を深め、将来、村で国際イベントを開催できるよう取り組みたい」と歓迎する。
筏師たちの意欲、国際交流への期待
村の筏師たちの意欲も高まっている。運航を担う「北山振興」の社長で筏師の山本正幸さん(59)は、欧州と北山村では、筏の大きさや操縦する道具が異なることに気づいたといい、「共通点や違いをもっと知りたい」と語る。
女性初の筏師を目指し、和歌山県新宮市から移住した見習生の女性(22)は「好きな地域の活性化に携わりたくて、この仕事を選んだ。山と岩の間をすり抜け、スリルのある筏下りをPRしたい」と意気込む。
ティール会長によると、欧州では新たにフランス、フィンランド、イタリア、ルーマニアが無形文化遺産の共同登録に加わる動きがあるといい、「北山村の協会加盟で世界の筏流しに関する知見が深まる。日本にもいずれ共同登録に加わってもらえたら」と期待する。
観光筏下りの人気、年間乗客1万人突破
北山村の観光筏下り(6キロ、70分)は5~9月に実施。SNSを通して若者や訪日客の間で人気が高まり、年間の乗客数は昨年度、初めて1万人を超えた。今季も週末などの予約はほぼ埋まっているという。



