日本航空ジャンボ機墜落事故で犠牲となった乗員乗客520人を悼み、当時遺体の修復に当たった看護師たちの経験が、今も看護学生に受け継がれている。日本赤十字看護大学(東京都)は2021年から年に2回、災害看護活動論の授業で、墜落事故で激しく損傷した遺体を三角巾などで修復した「整体」を学生に教えている。25年度は、他の選択科目の2倍を超える約70人が履修し、学生の関心は高い。
「安らかに眠れるように」と遺体を修復
講師を務めるのは、日本赤十字の元職員で墜落事故直後に活動した山本富美子さん(82)たちだ。41年前の8月25~26日、山本さんは群馬県藤岡市の女子高の体育館で、遺体の身元確認の手伝いと処置に当たった。発生から約2週間が経過し、確認を待つ遺体の棺が並んだ体育館は「入った瞬間、重たい空気が肩に乗った感じがした」と振り返る。
娘の遺体を確認した家族から「着物を着せてやることはできますか」と頼まれた山本さん。渡された着物は仕付け糸がついたままで、女性の失われた未来に胸を締め付けられた。遺体は顎から胸部にかけての一部だけだったが、生前の姿に近づけようと家族から身長や体重を聞き、段ボールや新聞紙で体を作った。「安らかに眠れるように」の一心だった。深々と頭を下げられた時、遺族の心の痛みを和らげていたことに気づいた。
経験したからこそ伝えられる
2日間の活動は、思い出すのもつらい。日赤の後輩から当時の経験を教えてほしいと頼まれても断り続けた。今も事故に関する本を読むことはできない。それでも時が経ち、共に活動した仲間が亡くなるなどしたことで、心境に変化が生まれた。「心をこめて救護する考えや姿勢は、経験した私だから伝えられる」と、学生の前に立つことを決めた。
授業では、心の尽くし方も教える。「なぜ顔の前に手を出すんですか」「襟が開きすぎじゃない?普通はこのくらいだよね。しっかり引っ張って」。人形を生きている患者のように扱うよう、厳しく指導する。学生からは「相手を思う気持ちが敬意を示すことにつながる」「(事故の)生の話を聞けたことは貴重だった」などの感想が寄せられているという。
看護の本質を伝える授業
授業を企画した看護学部の内木美恵教授(国際・災害看護学)は「亡くなった人の尊厳を守った活動の中に、看護の本質がある」と語る。大学では、墜落事故の教訓を将来の自然災害や大規模事故に生かすため、今後も授業を続ける予定だ。日本赤十字社も今年3月から、授業や当時の「整体」の様子をまとめた動画を公式ユーチューブで配信している。
山本さんは「あんな事故は二度と起きてほしくない。でも起きた時、心をこめた救護ができるかは普段の姿勢にかかっている」。これからも後輩たちに「心の救護」を伝えるつもりだ。



