カンボジアを拠点にした特殊詐欺グループで、かけ子として働かされていた若者らが、厳しい規律の中でうその電話をかけさせられていた実態が、法廷や拘置所での取材で明らかになった。警察官を装う「ニセ警察詐欺」で1億円以上を集めたグループの内部では、監視カメラや鉄格子のあるビルに監禁状態で滞在し、マニュアルを暗記するよう強要されていた。
監視と鉄格子の中での生活
神戸地裁で7月に開かれたかけ子の男(30)の公判で、検察側証人として出廷した男性(23)は「入れ墨の男が多かった。最上位者が誰かもわからず、何をされるのかわからない恐怖があった」と証言した。
男性は2年前、「電話をかける仕事」との誘いでカンボジアに連れて行かれた。拠点は繁華街にある7~8階建てのビルで、コンクリート造り、窓のカーテンは常に閉じられ、監視カメラと鉄格子、門番がいた。許可がなければ外に出られない環境だった。男性は約1か月で身内に不幸があったとうそをついて帰国し、警察に保護された。
当時、兵庫県内に住む大学生だった男性は借金が100万円ほどあり、知人に誘われてグループに個人情報を握られていた。「今でも復讐(ふくしゅう)されるのではと、怖い」と話す。
マニュアル暗記と役割分担
かけ子の男は拠点に半年間滞在して逮捕、起訴された。拘置所での面会取材に応じた男は、上層部の話になると口が重くなり、「暴力団が絡んでいるかもしれないと思っていた」と打ち明け、「上のことを知るのはリスクになると考え、聞かないようにしていた」と語った。
捜査関係者や男性らの法廷証言などによると、関西で勧誘された若者らは、カンボジアの空港でリーダーの菅原孝文被告(31)(起訴)と合流し、車で拠点まで連れて行かれた。菅原被告は「タカ」と呼ばれていた。
「ニセ警察詐欺」は、まず通信会社のカスタマーセンターの職員役が電話で「暴力団があなた名義の携帯電話を使っている」と話し、代わった警察官役が「あなたも共犯。協力しないと捕まえる」と脅す。その後、検察官役が「捜査協力名目で100万円が必要」と金銭を要求する流れだった。
菅原被告は、詐欺の文言などが書かれたマニュアルを書き写し、暗記するよう命令。教育係のメンバーが指導にあたり、実際のやりとりをその場や録音で聞かせた。夜のミーティングでは「マニュアルの読み上げにならないよう、抑揚をつけろ。量より質だ」と説いた。
テストに合格すると実際に電話をかけた。数十人いたかけ子は別々の部屋で役割を演じ、新人は通信会社のカスタマーセンター職員を装う「1線」と呼ばれるグループで1日数十人に電話。相手に反応があれば、手慣れたメンバーが警察官役の「2線」、検察官役で金銭を要求する「3線」へと引き継いだ。
菅原被告らは月1回、成果に応じて報酬を渡し、ゼロのこともあれば数百万円に上ることもあった。メンバーはビル内で寝泊まりし、活動は平日だけで土日は休みだった。
摘発の動きと背景
兵庫県警は2024年7月、男性の家族の相談をきっかけに捜査を開始。25年8月~今年1月、関西で活動するリクルーターや現地のかけ子ら男女8人を詐欺容疑などで逮捕した。6月には菅原被告をタイから移送して逮捕。ほかにもかけ子をしていた男ら計9人の逮捕状を取り、行方を追っている。菅原被告の公判はまだ始まっていない。
捜査幹部は「このグループはSNS上で見ず知らずの者を集めたのではなく、リクルーターが知人を誘い込んだ。応じた実行犯らは地元や人間関係まで知られているだけに、報復を恐れていた」と語った。
捜査関係者らによると、現地には中国人とみられる幹部が2人おり、菅原被告とは中国語で会話していた。日本語が不自然なマニュアルだったとの証言があり、県警は中国の犯罪組織が関わっている可能性があるとみている。
特殊詐欺事件は国内での摘発が強化され、海外に拠点を置くケースが目立つ。2017年には中国から日本に電話をかけていたかけ子グループが現地当局に拘束され、警視庁は19年にタイを拠点とするグループを摘発。警察庁によると、昨年にタイやカンボジア、フィリピン、マレーシアの詐欺拠点を巡って全国の警察が摘発したかけ子らは54人に上った。
近年は拠点が東南アジアから広がりを見せており、兵庫県警は昨年10月にアラブ首長国連邦・ドバイからうその電話をかけていたとして男らを逮捕。今年7月には西アフリカ・シエラレオネを拠点とするかけ子らの男女9人を逮捕した。
警察幹部は「東南アジアでの摘発が増え、他の地域に移す動きが広がっているのではないか。各国の当局と連携を深めていくことが不可欠だ」としている。



