米作家スティーブン・キングのホラー作品には、人間を次々に殺害する狼男との対決が描かれている。普通の武器では狼男には太刀打ちできない。倒すことができる唯一の武器として登場するのが「銀の弾丸」だ。西洋の伝承では、銀に怪物を退治できる霊的な力があると昔から信じられており、他の作家の物語にも出てくる。
「銀の弾丸」の比喩とその戒め
今日のノート 起死回生のイメージが強いからだろう。米国などでは「困難を一挙に解決できる魔法のような方法」の比喩に使われ、むしろ過度な期待への戒めの意味で用いられてきた。
この言葉を聞いて思い出すのは、コロナ禍の真夏に起きた、あの騒動である。大阪府の吉村洋文知事が「コロナに効くのではないか」と発言し、うがい薬を買い求める人が殺到した。実際は十分な根拠はなく、発言は勇み足だった。だが背景には、出口が見えない不安な状況下で「どこかに特別な武器があるはずだ」と渇望する社会心理があったのではないか。
身の回りにあふれる「万能薬」
見渡せば、健康やビジネスなど様々な分野で「万能薬」や「救世主」かのようにうたわれる方法は数知れない。政治の問題を単純化し、SNSを舞台に「これさえやれば良くなる」と訴える政治家も目立つようになった。銀の弾丸らしきものは身の回りにあふれている。
現実世界に銀の弾丸はない。複雑な時代を生き抜くために、忘れたくない心得である。 科学医療部長 中沢直紀



