夏になると、食欲低下やだるさなどを「夏バテかな」と感じる人は少なくありません。しかし、その中には心筋梗塞など命に関わる病気が隠れていることがあります。特に中高年では、夏という季節特有の条件が重なり、心筋梗塞のリスクが高まるケースがあります。本記事では、なぜ夏に心筋梗塞が起こりやすいのか、どのような症状に注意すべきかを解説します。
なぜ夏に心筋梗塞が起こるのか
心筋梗塞は「冬に多い病気」というイメージを持つ方も多いかもしれません。確かに冬は発症が増える傾向がありますが、夏もリスクが低いわけではありません。実際には、夏ならではの環境が心筋梗塞を引き起こす要因になります。
脱水が血液を固まりやすくする
心筋梗塞は、心臓の筋肉へ血液を送る血管に血栓ができ、血流が途絶えることで起こります。血栓ができるきっかけとなるのが、動脈硬化によって血管の壁にできる「プラーク」です。プラークが破れると、その傷を修復するために血液が固まり、血栓ができます。この血栓が血管を詰まらせることで心筋梗塞が発生します。
夏は大量の汗をかいて脱水になりやすく、血液が濃くなることで血栓ができやすい状態になります。このため、夏でも心筋梗塞のリスクは決して低くありません。
暑さによる体への負担
夏は暑さによって体温を下げるため、皮膚の血管が広がります。その結果、血圧が低下し、心拍数が増えるなど、心臓に負担がかかります。こうした体の変化も、心筋梗塞の発症に関係している可能性があります。
「夏バテ」と間違われやすい心筋梗塞のサイン
心筋梗塞というと、突然の激しい胸の痛みを思い浮かべる人が多いでしょう。もちろんそのようなケースもありますが、必ずしも典型的な症状ばかりではありません。
強い胸痛がないこともある
胸の違和感程度だったり、「胃の調子が悪いのかな」と感じたりするだけの場合もあります。このような症状は夏バテや胃腸の不調と勘違いされやすく、高齢者や糖尿病のある方では特に注意が必要です。
だるさ・異常な疲労感
これまで経験したことがないような強いだるさや、急激な疲労感も心筋梗塞のサインであることがあります。「いつもの夏バテとは違う」と感じるような倦怠感が続く場合は注意しましょう。
息苦しさ・呼吸のしづらさ
階段を上るだけで息切れする、少し歩いただけで苦しくなるなどの症状も要注意です。心筋梗塞によって心臓の働きが低下し、心不全を起こしている可能性があります。
吐き気・食欲不振
吐き気や食欲不振など、お腹の症状だけが目立つこともあります。夏は食中毒や夏バテも多いため見逃されやすい症状ですが、高齢者ではこのような非典型的な症状だけで発症することもあります。
こんな症状があればすぐ受診を
心筋梗塞は時間との勝負です。治療開始が早いほど、命が助かる可能性や後遺症を防げる可能性が高くなります。次のような症状があれば、ためらわず救急車を要請してください。
- 胸の圧迫感が続く:狭心症による胸の痛みは通常数分から20分ほどで治まります。一方、締め付けられるような胸の痛みや圧迫感が長く続く場合は、心筋梗塞の可能性があります。
- 冷や汗を伴う:胸の痛みに加えて、顔色が青白くなる、冷や汗が出るなどの症状がある場合は、心筋梗塞の可能性がより高くなります。
- 狭心症の症状が悪化した:狭心症と診断されている方で、発作の回数が増えたり、以前より症状が強くなったりした場合は、不安定狭心症や心筋梗塞へ移行している可能性があります。症状によっては救急要請もためらわないようにしましょう。
特に注意したい人の特徴
心筋梗塞は若い人より高齢者、女性より男性に多い傾向があります。ただし、高血圧や糖尿病、喫煙など、自分で改善できる危険因子も多くあります。
- 高血圧・糖尿病・脂質異常症:これらはいずれも動脈硬化を進める病気です。適切に治療することで心筋梗塞のリスクを減らすことができます。
- 喫煙・肥満・メタボ:喫煙は血管にダメージを与え、動脈硬化を進めます。肥満やメタボリックシンドロームも心筋梗塞の重要な危険因子です。
- 慢性腎臓病・末梢動脈疾患・心血管疾患:慢性腎臓病や末梢動脈疾患、さらに過去に心筋梗塞や狭心症、脳梗塞を経験したことがある方は、再発リスクが高くなります。継続的な治療と生活習慣の改善が大切です。
夏に気をつけたい生活習慣
夏の心筋梗塞を防ぐためには、高血圧や糖尿病などの治療に加え、夏ならではの対策も重要です。
こまめな水分補給
夏は汗によって脱水になりやすく、血液が濃くなりやすい状態になります。こまめな水分補給を心がけましょう。また、心筋梗塞は明け方から午前中にも多く、睡眠中の脱水も影響すると考えられています。寝る前にも適度な水分補給を意識しましょう。※心不全などで水分制限を受けている方は、主治医の指示に従ってください。
無理な暑熱環境を避ける
屋外では水分補給だけでなく、日陰で休憩したり体を冷やしたりすることも大切です。室内でもエアコンを適切に使用し、暑さを我慢しないようにしましょう。
「夏バテだろう」と思い込まないことが命を守る
夏の心筋梗塞は、だるさや息苦しさ、吐き気など、夏バテによく似た症状で始まることがあります。強い胸痛がないからといって安心はできません。「いつもの夏バテと違う」「何となくおかしい」と感じたら、自己判断で様子を見続けるのではなく、早めに医療機関を受診しましょう。
そして、「心筋梗塞は冬の病気」という先入観を持たないことも大切です。夏でも命に関わる病気であることを知り、気になる症状があればためらわず受診してください。
一宮西病院循環器内科部長・カテーテル室長の寺村真範先生(日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医)は次のように述べています。「心筋梗塞は命にかかわる病気であり、早期の診断と治療が必要です。一般的には、血管が収縮しやすく血圧の変動も大きい冬に多いとされていますが、夏にも心筋梗塞は起こります。夏に心筋梗塞を引き起こす大きな要因の一つが脱水です。脱水になると血液中の水分が減って血液が濃くなり、血栓ができやすくなります。その血栓が心臓の血管を詰まらせることで、心筋梗塞を発症することがあります。心筋梗塞の背景には動脈硬化があるため、糖尿病、高血圧、脂質異常症など、動脈硬化を起こしやすい病気をお持ちの方は、特に脱水にならないよう注意が必要です。心筋梗塞の代表的な症状は胸の痛みですが、ご高齢の方や糖尿病の方では痛みを感じにくいことがあります。また、胸の痛みではなく、吐き気や息切れ、強いだるさなど、典型的ではない症状として現れることもあります。「夏バテかな」と思っていたら、実は心筋梗塞だったというケースもあります。夏場の心筋梗塞を予防するためには、こまめに水分を補給し、脱水を防ぐことが大切です。また、心筋梗塞を見逃さないためにも、特に糖尿病、高血圧、脂質異常症などの持病がある方は、「いつもと違う」と感じる症状があれば、夏バテと決めつけず、早めに医療機関を受診しましょう。」



