なぜ人は眠るのか――この人類最大の謎に、睡眠学者で筑波大学教授の柳沢正史氏が迫る。訓練によって自分も睡眠時間が短い「ショートスリーパー」になることは可能なのか。ノーベル賞候補とも目される研究を基に、睡眠の科学と私たちの生活への影響を語った。
脳内物質「オレキシン」とは
柳沢教授は、覚醒を維持するのに重要な脳内物質「オレキシン」を発見したことで知られる。この物質の機能不全が、突然意識を失う睡眠発作「ナルコレプシー」を引き起こすことを解明した。ナルコレプシーの患者は、日中に制御不能な眠気に襲われる。
依存性のない新しい睡眠薬
従来の睡眠薬には依存性や副作用の問題があったが、オレキシン受容体拮抗薬という新しいタイプの睡眠薬が登場。これはオレキシンの働きを抑えることで自然な眠りを促し、依存性が低いとされる。
そもそも人はなぜ眠るのか
睡眠の根本的な理由はまだ完全には解明されていない。しかし、睡眠は脳よりも先に進化の過程で発明された可能性があり、脳を持たない生物も眠ることが知られている。つまり、睡眠は生命にとって根源的な現象だ。
睡眠のメカニズムは実は分かっていない
現代科学でも、睡眠のメカニズムは完全には理解されていない。柳沢教授は「睡眠の謎はまだまだ多く、研究が進むにつれて新たな疑問が生まれている」と語る。
コンピュータを眠らせるとどうなるか
人工知能に睡眠を模したプロセスを導入する研究も進んでいる。コンピュータに「睡眠」を取らせることで、学習効率や性能が向上する可能性が示唆されている。
本物のショートスリーパーは存在するか
「ショートスリーパー」と呼ばれる短時間睡眠で済む人々は、遺伝子変異によって生まれつきのものであり、訓練でなることはできないと柳沢教授は断言する。無理に睡眠時間を削ると、健康に悪影響を及ぼす危険性がある。
自宅で睡眠の脳波が測れる
近年、自宅で簡単に睡眠の脳波を測定できるデバイスが登場している。これにより、不眠症の診断や治療効果のモニタリングが容易になった。
不眠症の6割5分は実は眠れている
興味深いことに、不眠症を自覚する人の約65%は、実際には十分な睡眠を取れているというデータがある。主観的な不眠感と客観的な睡眠状態には乖離がある。
効率的に睡眠の質を調べるには
睡眠の質を調べるには、脳波計や加速度計を用いた検査が有効だが、簡易的な方法として、起床時の眠気や日中のパフォーマンスを記録することも推奨される。
※この記事は2024年12月23日に収録された動画を基にしています。後編の動画も公開中。
出演者プロフィール
柳沢正史:睡眠学者、筑波大学教授。1960年東京生まれ。筑波大学大学院博士課程修了。テキサス大学サウスウェスタン医学センターなどで研究室を主宰し、2012年に国際統合睡眠医科学研究機構を設立。2017年にベンチャー企業「株式会社S'UIMIN」を起業。文化功労者、紫綬褒章、ブレークスルー賞、クラリベイト引用栄誉賞など受賞。
星野貴彦:プレジデント編集長。1981年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、NHK入社。プレジデント社を経て、2018年プレジデントオンライン編集長、2024年7月より現職。



