物心ついた時には両親はすでに離婚し、小5の時に両親は再婚した。母親と継父とその連れ子との暮らしは初めのうちは良好だったが、次第に母親から暴力を振われ、精神的に支配されるように。ノンフィクションライターの旦木瑞穂さんが、3歳の頃にはすでに「性別違和」を感じていたという“僕”の半生を取材した。
エイプリルフールの異変
3年前の春の週末のこと。西日本在住の熊部悟朗さん(仮名・50代)は自宅で飼育しているウーパールーパーの水槽の掃除をしているときに異変を感じた。掃除の途中で夕食のカレーを食べ、再び掃除に戻った瞬間、右半身にこれまで感じたことのない痺れを感じたのだ。
「あれ、なんか変な体勢でもしてたかな?」そう思って立ち上がると、突然目の前の世界が右へ右へと傾いていくようなおかしな感覚に襲われ、思わず「怖い!怖い!」と口走ってしまう。そばにいた妻や小4の息子は、「いきなり何を言っているんだ?」と当惑。「4月1日のエイプリルフールで、家族を驚かそうとしているの?」と思った。
右へと傾くそのおかしな感覚は、少し座っていたら治ってきた。そのため、水槽の掃除だけなんとか終わらせ、就寝した。翌日は日曜日だったが、痺れだけ残っていたので、念のため日曜診療の病院を探して受診することにした。
熊部さんは、「どうせ大したことないから、帰ったら花見をしよう」と妻と息子に声をかけて1人病院へ向かう。医師に「念のためMRIを」と言われ、次にCT、さらに心電図と検査が続く。「やけに手厚いな」と思っていると、突然熊部さんの目の前に車椅子が現れ、「座ってください。ご家族を呼んでください」と看護師に促される。
言われるままに家族を呼び、到着すると、医師は画像を見せながら告げた。「脳出血です。即入院になります」。熊部さんの脳の画像の中に、白く小さな影が映っていた。気がつくと、息子の目が涙で潤んでいる。「ごめんな。花見できなくなっちゃったな」。そうして熊部さんは車椅子で入院病棟へ連れて行かれた。このときの熊部さんは、「日常が大きく変わってしまう」ということまで想像が及んでいなかった。



