京都産業大学教授の藤野敦子氏による新著『転勤の社会学 ジェンダー・家族から問う日本的雇用システム』(勁草書房、4400円)が刊行された。歴史社会学者で京都大教授の福間良明氏が書評を寄せている。
著者の転勤経験が基盤に
福間氏は自身の少年期を振り返り、父の転勤でほぼ2年に一度転校を繰り返した経験を語る。「うまくなじむために、次の学校でどんな性格を演じるか」と考え、自己とは演技であることをうすうす感づいていたという。また、小学1年の冬休みに小倉へ転居した際、母がとてつもなく不機嫌だった記憶を挙げ、「大人でもこんなに不貞腐れるのか」と思ったが、荷物整理や役所の手続き、近隣ネットワーク形成の心労を考えれば無理もないと述べている。
転勤が妻に強いる負担とキャリア断絶
転勤は本人だけでなく、配偶者にもさまざまな負担や制約を強いてきた。夫の転勤はしばしば妻の職業キャリアの途絶に直結する。夫婦同居を選ぶ場合、妻の正社員としての就労は難しく、パートやアルバイトなどの非正規雇用を選ばざるを得なかった。また、夫の単身赴任を選択しても、妻の過重負担は変わらない。バブル崩壊以降、企業が社宅を手放すようになり単身赴任が増加したが、それは妻に家事や子育ての「ワンオペ」を強いることと同義だった。このことも妻のキャリアの制約に直結し、育児対応は時間の融通が利きやすい職務の選択につながる。妻が積極的に転勤を受け入れキャリアアップを目指すことは難しく、正規雇用であっても能力発揮に歯止めをかけなければならないことが少なくない。
転勤がもたらすジェンダー不均衡
転勤は被雇用者のみの問題ではなく、ジェンダーの不均衡のあらわれにほかならない。本書では、転勤をめぐる子育て世代・若年世代への影響の調査や国際比較を通して、家族の親密性の低下や出産の抑制、昇進の断念など、戦後労働史のひずみが鋭く描き出されている。夫の転勤に振り回された著者の経験談も重く、その思いが根底にありつつも、学問として冷静に「転勤の社会学」を切り拓いている点が印象深いと福間氏は評している。



