静岡県庁で18日、リニア中央新幹線静岡工区の自然環境保全協定の締結式が開かれた。静岡県の鈴木康友知事の隣にJR東海の丹羽俊介社長と国土交通省の水嶋智事務次官が並び、三つの組織のトップが一堂に会した。数年前には想像できない光景だった。
鈴木知事は記者会見で「感無量でございます」と述べた。
対立の発端と経緯
発端は2013年、JR東海が公表した環境影響評価で、トンネル工事により大井川の流量が毎秒2トン減少すると予測されたこと。県や流域自治体が反発した。
当時の川勝平太知事は「大井川の『命の水』を守るのが使命だ」として全量戻しを要求。JR側が応じず、川勝氏は17年に「堪忍袋の緒が切れた」と着工不認可を表明した。
その後、川勝氏とJR東海の金子慎社長(当時)による初のトップ会談が実現。1時間20分に及んだが平行線に終わり、川勝氏は静岡茶を勧めながら大井川の水の重要性を力説した。
国の介入と冷え切った関係
国は有識者会議を設置。当時鉄道局長だった水嶋氏が奔走したが、川勝氏は委員選定などに不満を募らせ、「恥を知れ」と水嶋氏を非難した。
この強硬姿勢は霞が関に静岡県を敬遠する空気を生んだ。ある県幹部は国土交通省で知り合いの課長を訪ねた際、「静岡県です」と名乗ると居留守を使われ、後日「静岡県と名乗ってはだめですよ。僕の立場を考えてください」と電話があったという。
国との人事交流も途絶し、県幹部は「国とのパイプが極端に細り、政策を進める上でも悪影響を及ぼしかねない危機感があった」と打ち明けた。
雪解けと協定締結
状況が動いたのは24年春。川勝氏が失言で辞任し、鈴木知事が就任。鈴木氏は「環境の保全」と「リニア推進」の両立を掲げ、省庁に足を運び関係修復を急いだ。JR東海も25年1月、リニア駅ができない静岡県への地域振興策として東海道新幹線「ひかり」の増便を提案。鈴木知事は「相当踏み込んだ回答。喜ばしい情報だ」と評価した。
迎えた18日の式典。記念撮影で鈴木知事に笑顔はなく、「これからが本番だ。しっかりJRを監視していく」と強調した。
南アルプスを貫くトンネル工事は最難関とされ、他県では井戸の水枯れなどの異変も報告されている。長きにわたる議論が大井川流域の住民のためだったのか、その真価が問われる。



