東京大学大学院准教授の斎藤幸平氏は、自身の人生を変えた一冊の本との出会いを語る。かつて日本の良さや『武士道』に関心を寄せていた自分は、ナショナリズムのような思想に回収されていたところがあったかもしれないと振り返る。
ナショナリズムの高まりと自己反省
2002年の日韓ワールドカップ開催時、ナショナリズムが盛り上がっていたことも影響していたと述べる。新自由主義のもとで個人主義的な風潮が強まる中、バラバラになっていく個人を日本古来の良さで統合したいという思いがどこかにあったのかもしれないと回想する。
『犠牲のシステム』への気づき
きっかけの一つは、高橋哲哉氏の『靖国問題』だった。高橋氏はフランスの哲学者ジャック・デリダの研究者でありながら、慰安婦問題や靖國問題といった戦後責任について具体的な課題を著した。斎藤氏は、高橋氏が東大の駒場で授業を持っていたことを幸運だったと語る。
その後、高橋氏の『犠牲のシステム 福島・沖縄』を読み、経済発展や安全保障といった共同体全体の利益が、沖縄の基地負担や福島の原発事故のような誰かを犠牲にするシステムの上に成り立っていることを指摘したことに影響を受けた。
斎藤氏は、人の意識ではなく、誰かを犠牲にする社会のシステムそのものに着目する研究をしたいと強く考えるようになった。とりわけ、マルクスを深く知ることで、資本主義という「犠牲のシステム」がはらむ矛盾を明らかにできるのではないかと述べている。



