高市早苗首相の昨年11月の国会答弁後、中国政府は中国人の訪日者数を急減させた。その背景にある統制メカニズムについて、愛知大学の加治宏基教授に聞いた。
中国政府が国民の海外渡航を統制するシステム
中国政府が訪日自粛を呼びかけて以降、中国人訪日客が急減した。政府のかけ声ひとつでなぜ減らせるのか。加治教授は「中国には政府が国民の海外渡航を統制できるシステムがある」と指摘する。ADS(Approved Destination Status、渡航目的地認定)制度と呼ばれ、1990年ごろに国境を越えるヒト・カネ・モノの管理を目的に整備された。
この制度は「中国公民出国旅游(旅行)管理弁法」という国内法に基づき、政府が国民の渡航を認める海外の国や地域を定めている。確認できる最近の資料では、コロナ後の2023年8月時点で、日本を含めた138カ国・地域が認められている。
出国者数の枠組みと地方政府の監視
同法には、国が毎年出国者数の枠を定めて地方政府に伝え、地方政府はエリア内の旅行会社が組める海外旅行ツアーの人数を承認する規定もある。加治教授は「制度の詳しい運用実態はわからないが、国が出国の意思を持つ中国人を管理するとともに、地方政府を監視、コントロールできるようにするねらいがある」と分析する。地方政府は国の定めた割当枠をうまく守っていると感じるという。
中国人の訪日客急減の背景には、このようなシステムが存在する。日本では海外渡航の自由が保障されているため、理解しにくい仕組みだ。
移動の自由と中国の制度の違い
個人の「移動の自由」を制限するこの制度は、日本をはじめ西側の民主主義国には基本的に存在しない。「移動の自由」は、1948年12月に国連総会で採択された世界人権宣言が保障する基本的人権の一つで、日本国憲法第22条が規定する居住・移転の自由に該当する。一方、中国は歴史的にツーリズムを外交の手段として利用してきた側面がある。
加治教授は「インタビューツーリズムを外交に使った中国、旅行者をアメに」と表現し、中国政府が旅行者を外交上の「アメ」(誘因)として活用する一方、関係悪化時には「ムチ」として渡航制限を行使できるシステムを維持していると指摘する。



