人工知能(AI)の急速な普及が米国経済にもたらす富の分配をめぐり、ワシントンで新たな税制構想が浮上している。みずほ総合研究所の安井明彦シニアプリンシパルは、現行の税制ではAI時代の雇用変動に対応できず、財政の持続可能性が脅かされる可能性を指摘する。
個人所得税への依存が限界に
米国政府の最大の財源は個人所得税であり、2025年度実績で税収全体の半分強を占める。しかし、AIによる雇用の代替が進めば、所得が減少し個人所得税収が減少する一方、失業対策やリスキリング訓練などの歳出拡大圧力が生じる。この「歳出増・歳入減」のダブルパンチが財政を直撃する恐れがある。
安井氏は「大量の雇用がAIに置き換えられれば、個人所得税が集めにくくなり、新しい財源の議論が避けられない」と述べる。特に、ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)のような一律給付を導入する場合、財源問題はさらに深刻化する。
AI課税と資本共有の二つの構想
こうした状況を受け、AI関連の新税制構想が大きく二つに分かれて議論されている。第一は、AIシステムやロボットの導入に対して課税する「ロボット税」や、AIが生み出す利益に特別な法人税を課す案だ。第二は、国民がAI資本の一部を共有する「資本共有」モデルで、AIの生産性向上による果実を広く分配する仕組みを目指す。
例えば、AI企業に株式の一部を国民に分配する義務を課す案や、AI関連の特許収入を国民基金に組み入れる案が検討されている。これらの構想は、税による再分配ではなく、資本そのものの所有権を広げることで格差是正を図る点が特徴だ。
政治的な壁と今後の展望
しかし、実現には大きな政治的障壁がある。ロボット税は技術革新を阻害するとして、シリコンバレーや共和党から強い反発が予想される。一方、資本共有案は「社会主義的」との批判もあり、超党派の合意は困難だ。
安井氏は「AIが生み出す富の配分を巡る議論は、単なる税制改革を超えて、資本主義のあり方そのものを問い直すものになる」と指摘する。2026年秋の中間選挙に向け、各党が具体的な政策を打ち出すか注目される。



