独身研究家の荒川和久氏は、現代の日本社会において「普通の暮らし」が維持できなくなったことが、結婚減少や少子化の根本原因だと指摘する。メディアでは「共働き夫婦の増加」が価値観の変化として報じられるが、荒川氏は「共働き・二馬力で稼がないと生活が成り立たなくなってきているからだ」と実情を説明する。
物価高と住宅費の高騰が直撃
日々の食品価格の上昇に加え、住宅費も高騰している。地方在住者にとっては、生活に欠かせない自動車のガソリン代も重くのしかかる。子育て世帯は将来の教育費や老後資金への不安も抱える。荒川氏は「物理的なインフレと同時に、かつては心配不要だった『普通』の意識のインフレが起きている」と分析する。
その結果、「普通の暮らし」に必要なコストが上昇し、従来の基準では安心できなくなった。荒川氏は「失われたのは『将来なんとかなる』という安心の共有だ」と語る。
上位3割だけがクリアできる基準
安心を得るための基準は上がり、それをクリアできるのはせいぜい上位3割に限られる。残り7割は「客観的に普通であっても安心できない」心理状態に追い込まれる。働いても足りず、夫婦二馬力でも追いつかない。疲れ果てて子どもとの時間も楽しめず、働く目的すら見失う。
結婚を希望する若者たちは、年齢や年収だけでなく、家事育児能力、コミュニケーション能力、さらには「清潔感」という名の容姿まで厳しく吟味される条件競争に巻き込まれている。職場では恋愛がリスクとみなされ、交際に同意が必要など規制が増え、「何もしない方が得」という思考に陥りやすい。
コスパ・タイパは防御本能
若者がコスパ(コストパフォーマンス)やタイパ(タイムパフォーマンス)を重視する傾向も、荒川氏によれば「普通の安心を得るための防御本能」だ。昭和は何も考えなくても普通の安心があったが、令和は様々なことを考え、最小リスクを求めるなら何もしないことが合理的な時代になったという。
荒川氏は「婚姻減や少子化を若者の価値観変化と逃げるのではなく、社会構造や経済環境がもたらした結果と認識すべきだ」と主張する。普通が普通でなくなったことこそ異常であり、安心が失われた社会に未来はないと警鐘を鳴らし、「普通のインフレ」を悪化させないための「安心のインフラ」再構築を訴えている。



