「職人の味を、全店で再現する」——口で言うのは簡単だが、実際に成立させている飲食チェーンは多くない。修行を積んだ職人が一店で振る舞うからこそ、味は守られる。それが料理の世界の常識だ。ところが、その常識をひっくり返している天丼チェーンがある。「金子半之助」だ。
創業者・金子真也さんの手を離れたブランドは、現在オイシーズ株式会社の下で国内38店舗・海外23店舗(2026年3月時点)まで広がり、売り上げは2桁成長を続けている。驚くのは、その厨房に立っているのが必ずしも職人ではないことだ。アルバイトでも、入って2カ月あれば全タネを揚げられるようになるという。それでも味は崩れない。創業時のクオリティを守り続けている。
修行に何年もかかる職人の世界で、なぜそんなことが可能なのか
カギは、徹底した「仕組み化」にある。ただし、それは単なるフォーマット化ではない。仕組み化の出発点となるのは、味の核を握る「タレ」と「油」だ。
外食チェーンの動向や新メニューの裏側を探る、マエノメリ史織さんの連載「外食ビジネスのハテナ特捜最前線Ⅱ」。第2回後編では「金子半之助」の「仕組み化」についてお届けする。
タレの秘密を知るのは、社内で2人だけ
「天丼のタレは、簡単に入手できないよう、厳重に管理しています」——天丼の味の要となるタレについて聞くと、国内事業本部長の長瀬太一さんは、慎重に言葉を選びながらそう答えた。
タレと油、二つの秘伝。提供直前に秘伝のタレをかける(写真:オイシーズ)。タレの配合を知るのは社内でわずか2人だけ。この徹底した秘密主義が、味の均一化を支えている。
暗黙知を、徹底的に言語化する
さらに、揚げ技術の「暗黙知」をマニュアル化。例えば「油の温度は何度で、衣の状態はこう」といった職人の勘を、数値と写真で誰にでもわかるようにした。これにより、2カ月でアルバイトが“揚げ手”として育つ。
海外で変える部分、絶対に変えない部分
海外店舗では現地の食材や食文化に合わせて一部を変更するが、タレと油の基本は絶対に変えない。フードコートでも、揚げ置きは一切しない。注文が入ってから揚げるスタイルを貫く。
仕組み化とは、手間を増やすこと。単純化ではなく、品質を保つための工程を増やし、それを徹底することで、全店で同じ味を提供できるのだ。



