中国の学術界に「告発型インフルエンサー」の波
元医学生で動画ブロガー「Student Geng」として活動する耿弘偉(Geng Hongwei)氏の配信をきっかけに、中国の学術界で研究不正スキャンダルが相次いでいる。英科学誌Natureが6月12日に報じた。
耿氏の配信により、Nature誌およびNatureブランドの3つの学術誌に掲載された論文にデータ不整合の疑いが浮上。耿氏に名指しされたのは、中国の4つの大学に所属する5人の研究者で、全員が調査対象に。うち4人が所属機関から懲戒処分を受けている。
耿氏は動画サイト「Bilibili」でフォロワー数220万人を超えるインフルエンサーで、新たな科学的発見、学術界のニュース、学術不正の疑いに関する動画を投稿している。2026年4月から5月にかけて、BilibiliやDouyinなどのSNSで一連の疑惑を告発し、累計で1000万回近い再生数を記録した。
データ不整合の具体例
耿氏は動画内で、自ら分析した不自然なデータパターンを公開している。例えば、2024年11月にNatureに掲載された元素がDNA修復を調整する論文では、表計算ソフトのソースデータ280項目のうち76%が「5」で終わっており、統計的にあり得ない偏りであることを指摘した。
24年1月のNature Cancerの論文では、数値64個の小数点以下の2桁が別シートの同じ位置にある数字と一致する例を挙げ、データの不整合を疑った。
Natureの出版元である独Springer Natureは各論文に対し、懸念を示す編集者ノートを追記。独立した専門家や関連機関と連絡して詳細な調査を進めているという。
大学による処分
告発の対象となった上海の同済大学、天津の南開大学、広州の中山大学は、関与した研究員に対する処分を発表した。
同済大学は、元生命科学技術学院長の許平氏を処分した。5月6日の声明によると、責任著者・指導教員としてデータの正確性と質を確保する義務を怠ったとし、院長解任・2段階降格の上で人事権や賞与権などを24カ月停止。問題の14の表を担当した筆頭著者は、10の表で学術不正などが認定され解雇された。
南開大学は5月30日に調査結果を発表。元生命科学学院長の張氏が責任著者としての質保証を怠ったとして解任・降格。筆頭著者は学術不正で解雇、もう一人の責任著者も懲戒処分を受けた。
中山大学も30日に調査結果を発表。学術的な厳密さの欠如と学術不正が認められたとして、華南癌症科学国家重点実験室の副主任と、中山大学がんセンター実験研究部の副主任を務めていた蘇逢錫氏を解任。同大学生命科学学院の李建国学院長も解任された。
構造的な問題
一連の騒動は、中国の学術評価システムが抱える構造的な問題を浮き彫りにした。耿氏自身も、論文量産を求められる環境や研究者としての将来が描けないことを理由に、北京の大学の医学研究科を中退している。
論文数の急増とともに撤回件数も増えており、23年時点で世界の撤回論文5万件超の半数以上に中国の研究機関が関与し、米国の5倍以上に上るという。中国の撤回理由は約20%が論文作成代行業者、4.3%が盗用、2.8%が不整合・改ざんとされている。



