サントリーは7月16日、『金麦』および『金麦〈糖質75%オフ〉』を10月6日付でビールに刷新し、新たに『金麦〈豊潤〉』を10月13日に発売すると発表した。2026年10月の酒税改正によりビールと発泡酒の税率が一本化されるのを機に、従来の新ジャンル(発泡酒②)からビール製法へと区分を変更する。同社は増税分のみを価格に反映させ、エコノミー価格帯を維持したまま中身をビールに引き上げる方針だ。
物価高と節約意識が生む「デイリービール」の余白
サントリーが実施した「消費意識とビール選びに関するアンケート調査」(n=22,238)によると、ここ数年の物価高を実感している生活者は91.3%に上り、今後の生活費に不安を感じる人は85.9%に達する。食料品価格は2007年から2025年にかけて46.1%上昇した一方、名目賃金指数の伸びは7.4%にとどまる。節約意識は日用品や食費と並んで「お酒」にも強く向いており、週3日以上ビール類を飲む節約志向派のうち4割が「お酒」への節約を強く意識していると回答した。
酒税改正後のビール価格(コンビニ350ml換算で税込227円程度)について、「自宅で日常的に飲むには高い」と感じる人は83.9%に達した。一方、「30円安ければ気軽に飲める」と答えた人は83.8%、「30円安ければ飲む頻度が増える」と答えた人は76.3%に上る。節約したい気持ちと家でビールを楽しみたい気持ちが同居する生活者の本音があり、この隙間に「デイリービール」の新価格帯が入り込む余地があると同社は見る。
2023年の酒離れ教訓を踏まえた価格戦略
同社にとって酒税改正は諸刃の剣でもある。2023年の第一期酒税改正時には、新ジャンル市場112百万ケースのうち、酒量減を含む「酒離れ」が7.4百万ケース、ビール類自体から離れる「ビール類離れ」が4.3百万ケース発生した。合わせてビール類市場全体の約4%に相当する規模だ。この教訓から、同社は値上げ幅を酒税改正分のみに抑え、エコノミー価格帯を守る道を選んだ。2026年1〜6月の実績でも、ビール類計は対前年99%と苦戦する中、金麦ブランドのみ101%と踏みとどまっている。
同日開催された「2026年酒税改正 ビール戦略説明会」で、サントリー代表取締役社長の西田英一郎氏は「ビール類市場は2020年を境に縮小が続いている。ビール化した金麦によって市場を創造し、縮小に歯止めをかけ、市場の再生を図りたい。ニーズに寄り添い、進化した金麦を届け、ビールのある豊かな生活を提供したい」と述べた。
880円の価格帯と金麦らしさの両立
酒税改正後の350ml・6缶パックの想定価格は、『ザ・プレミアム・モルツ』などのプレミアムビールが1,130円、『サントリー生ビール』などのスタンダードビールが1,030円、そして『金麦〈RICH MALT〉』『金麦〈糖質75%オフ〉』はデイリービールとして880円に設定された。150〜200円の差が消費者の選択にどう影響するかが焦点となる。
質疑応答では、社内の『サントリー生ビール』との競合を懸念する声も上がった。これに対し、同社常務執行役員ブランド部門長の多田寅氏は「価格帯と価値のバランスで生活者はブランドを選り分けている。プレミアム、スタンダード、デイリーと分かれていても、ある一定の住み分けができており、現時点ではほとんど気にしなくていいと見解を持っている」と述べた。
金麦は麦由来の濃厚なうまみと後味のすっきり感で「安いから選ぶ」のではなく「金麦を選ぶ」愛飲者も多いブランドだ。ビール化にあたり、麦芽比率を50%以上に高めながら、「麦のうまみ」と「澄んだ後味」の両立に数十回の試験醸造を重ねた。さらにコク・飲みごたえを求める層(約25%)向けに新商品『金麦〈豊潤〉』を投入し、『ザ・プレミアム・モルツ』で培ったダイヤモンド麦芽やダブルデコクション、銅炊き仕込みなどの技術を注ぎ込んでいる。飲みやすさ重視(約50%)、コク・飲みごたえ重視(約25%)、機能重視(約25%)の3つの嗜好を金麦ブランド内で受け止める構えだ。
発売日を金麦本体・糖質75%オフの10月6日と、金麦〈豊潤〉の10月13日に分けた点について、多田氏は「まずは金麦がビールになったことをしっかり伝えることを優先し、ずらした方がお客様に分かりやすく伝わる」と説明した。
デイリービール市場の定着へ、消費者の判断が鍵
安さだけでは2023年の轍を踏みかねず、こだわりだけでは価格の壁を越えられない。金麦が本当に「デイリービール」という市場を定着させられるかは、880円という価格が示す価値を消費者がどう受け止めるかにかかっている。10月6日、店頭に並んだ瞬間から問われることになる。



