夏の連続ドラマが続々とスタートする中、TBS系金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』(毎週金曜22:00~)が異例の注目を集めている。SNS上での反響はもちろん、第1話無料配信の1週間の再生数は、2024年前期に話題となった『不適切にもほどがある!』を上回り、TBS「金曜ドラマ」枠の新記録を樹立した。
生方美久の新境地、初のTBSオリジナル脚本
本作の脚本を手がけるのは、2021年に「フジテレビヤングシナリオ大賞」を受賞した生方美久。その後、『silent』(2022年)、『いちばん好きな花』(2023年)、『海のはじまり』(2024年、いずれもフジテレビ)と話題作を連発してきた。今回、初めてTBSで書き下ろした作品となる。
生方は自身の作品について「共感を求めていない」と語る(『GINGER』5月20日付)。配信事業の拡大によりプラットフォームが増え、ドラマの本数が圧倒的に増えた現在、視聴者は「わかる、わかる!」と仲間と共感し意見を共有する時代から、個々が自分のタイミングで意見を投稿・考察し、不特定多数に向けてシェアする時代へと変化した。多様化によりカスタマイズが進み、マジョリティの支持がなくても話題作が生まれるようになった。
『不適切にもほどがある!』との対比
『不適切にもほどがある!』は、昭和のダメ親父・小川市郎(阿部サダヲ)が令和にタイムスリップし、コンプライアンスでがんじがらめの世の中に物申すドラマ。昭和からテレビ業界に携わってきた筆者から見ても、当時は確固たるコンプライアンスや専門部署がなかった。コンプライアンスを念頭に作品作りを余儀なくされ、企画内容を変更するケースも見てきた。そうした中で『不適切にもほどがある!』は「エッジの効いたテレビドラマはもう難しいのでは?」という感覚に一石を投じる作品であり、同時に今の時代を息苦しく感じているZ世代へのメッセージでもあった。タイムスリップという手法で昭和から令和を描いたことで幅広い層から支持された。
一方、『Tシャツが乾くまで』は、生方の「共感を求めない」姿勢が明確に表れている。同じ生方作品である『いちばん好きな花』では、「2人組を作るのが苦手」な主人公4人が最終的に「みんなみたいにならなくていい」という答えにたどり着く。共感されなくても、届く人に届けたいという思いが今作ではしっかりと伝わっており、それが配信記録という形で証明されたのではないだろうか。
緻密な構成と予測不能な展開
本作の魅力はそれだけではない。緻密に積み上げられた構成、登場人物たちのちょっとしたおかしみ、予測不能な展開とその速さが特徴だ。
『海のはじまり』が病死から始まったのに対し、今回は交通事故が発端。相手が不在で「本当のことを聞きたくても聞けない」状況が、残された者たちに真実を知りたい欲求を生み、謎を解き明かし答えを導き出させる。それが果たして正解かどうかもわからない。むしろ、きれいではない“フィルター”越しに見ていたほうが良かったという結論に至るかもしれない。そのため、徐々に明らかになる一つ一つのパーツから目が離せない。
“不倫”の定義を問い直す
予測不能な要素の一つが“不倫”である。第1話のラストで、樹生(中島歩)が妻のあずさ(夏帆)と充(松山ケンイチ)が不倫していたことを咲子(蒼井優)に告げる。しかしその根拠においても、咲子と樹生にはズレがある。第2話では、咲子の先輩・千鶴(臼田あさ美)がその話を聞き、自分は交際相手の妻も公認で“不倫”をしていると躊躇なく言う。そもそも“不倫”とは何か、その定義は何か。これも個々が感じることで人それぞれ予測不能な考えを持っているのだと提起しているように思う。
生方脚本に宿る優しさ
直人(高橋文哉)や幸次(リリー・フランキー)など周囲の人物と主人公の関わり合いも見どころだ。『silent』では、再会した紬(川口春奈)と想(目黒蓮)に不安と嫉妬を感じた湊斗(鈴鹿央士)が、あっという間に別れを切り出した。『海のはじまり』では、一度は海(泉谷星奈)の母親として生きていこうと決心した弥生(有村架純)が別の道を選択する。両シーンは切なく、大いに泣かせたが、実は両ドラマとも、主人公の一番の理解者が自らの道を選択することで、主人公の進むべき道を指南している。そのシーンだけ切り取ればつらいが、ここに生方脚本の優しさが詰まっている。今後、高橋やリリーらが見せてくれるであろうドラマの“起点”にも注目したい。
毎作品、異なる魅力で我々を魅了してきた生方美久。今回はどのような新しい世界に誘ってくれるのか、楽しみでならない。



