脳神経外科医の菅原道仁氏は、著書『わたしの脳のしつけ方』(扶桑社)の中で、人間が幸福感を感じにくい原因の一つとして、脳の「比較グセ」を挙げている。菅原氏によれば、「人間の脳は、日常のあらゆる場面で自分と他者、過去と現在、理想と現実の差を検出しようとしている。この比較グセが幸福を遠ざけている」という。
脳は「予想との差」に反応する
菅原氏は、脳には「報酬系」と呼ばれる神経回路があり、中脳の腹側被蓋野(VTA)から側坐核へとつながっていると説明する。この回路は「もっとやりたい」というやる気や学習の原動力に関わり、特に「報酬の量」そのものよりも「予想との差」に敏感に反応する。これを専門用語で「報酬予測誤差」と呼ぶ。
例えば、テストで70点を予想していたのに90点を取れば嬉しいが、逆に90点を期待して70点だった場合には落ち込む。これは脳の報酬系が「予想との差」に反応するためだ。予想より良い結果が出れば報酬系の活動が高まり、悪ければ低下する。この差を手がかりに脳は学び、行動を修正する。
比較は脳の初期設定
脳は日常のあらゆる場面で、自分と他者、過去と現在、理想と現実を自動的に照らし合わせ、差を検出しようとする。これは意志の問題ではなく、環境の変化を素早く察知して生き延びるために進化の過程で備わった脳の初期設定のようなものだと菅原氏は指摘する。
つまり、比較をやめられないのは性格や意志の弱さが原因ではなく、脳がそもそも比較するようにできているからだ。
SNSが比較中毒を加速
菅原氏は、SNSの普及が「比較中毒者」を増やしていると警鐘を鳴らす。友人の結婚や同僚の昇進といった情報がSNSを通じて容易に入ってくることで、無意識のうちに比較が生じ、ストレスとなる。特に「いいね数」や「フォロワー数」は脳を刺激し、衝動を抑えられない若者を生んでいるという。
また、年収500万円でも、周囲の収入や生活水準と比較することで一気に物足りなく感じる瞬間がある。これは脳が無意識のうちにハードルを上げていくためだ。
幸福のための脳のしつけ方
菅原氏は、消耗を避けより幸せに生きるためには、つい比較してしまう脳のクセを知ることが重要だと述べている。比較は脳の自然な反応であると理解し、その上でどのように向き合うかが鍵となる。
本稿は菅原道仁『わたしの脳のしつけ方 なぜあなたはしあわせを感じられないのか』(扶桑社)の一部を再編集したものである。



