編集権の尊重を理由に、上位役職者や管理部門が編集部への干渉をためらう状況があった――。小学館が3日に公表した第三者委員会(委員長=伊丹俊彦・元大阪高検検事長)の調査報告書は、性加害を巡り係争中の作家に別名義で漫画原作を担当させていた問題について、こうした構造を「人権侵害への助長または加担と評価されうる」と断じた。
発端は札幌地裁判決、山本章一氏が別名義で原作
事案は今年2月、教え子に性加害をした元高校教員に1100万円の支払いを命じる札幌地裁判決をきっかけに表面化した。元教員は「マンガワン」で連載された「堕天作戦」の作者・山本章一氏。係争中も筆名を変えて「常人仮面」の原作を担当していたことが明らかになった。
編集部は2月に「常人仮面」の配信を停止。小学館は3月に第三者委員会を設置し、調査を進めていた。
担当編集者は休止後も原稿料支払い、示談交渉を実質的に推進
報告書は、外部から同一人物であることを認識しにくい形で活動が継続されたことを「被害者の救済に対する適切な影響力を行使したとはいえない」と指弾。担当編集者は「堕天作戦」の連載休止後も山本氏に原稿料を払い続け、新企画の構想も提案した。示談交渉を実質的に進めており、「被害女性に対する人権侵害を助長し加担したと評価されてもやむを得ない」などとした。
編集部門内で完結する傾向、管理部門の関与を提言
また、編集権の尊重を理由に編集長以下の編集部門内で判断を完結させる傾向があったとして、上位役職者や法務室など管理部門が関与する仕組みを整備する必要があると提言した。
さらに雑誌「週刊ポスト」編集部の担当者が、取引先の関係者に不適切な性的要求を繰り返していた問題にも触れ、権力の不均衡を背景とする人権リスクが顕在化し、通報・相談窓口に課題があったと指摘した。
小学館「意味と責任に向き合いたい」、専門家は警鐘と評価
報告書の公表を受け、小学館は「調査報告書に示された事実を重く受けとめ、意味と責任に向き合っていきたい」とコメントし、4日に経営責任と再発防止策を公表するとした。
ビジネスと人権問題に詳しいオウルズコンサルティンググループの矢守亜夕美執行役員は「報告書は個人の責任追及にとどまらず、編集部門への裁量集中や管理部門の権限の弱さといった構造的課題まで踏み込んでいる。特に『編集権の裁量があっても、企業の人権尊重責任は免除されない』との指摘は、メディア業界全体への警鐘といえる」と話す。



