スモーキングルーム第296回:金ボタン、煙に新たな道を提案
スモーキングルーム第296回:金ボタン、煙に新たな道

「まあな」と金ボタンは黒い蝶ネクタイを緩めた。「どういうこと?」と砂糖煮の娘が眉間に皺を寄せる。

ホテル従業員の倫理

「砂糖っ子は勘違いしているが、俺はホテルの客に手をだしたことはない。ホテルの男性従業員が女性客と関係を持ったなんて噂が流れたら、もう女性たちは安心してそのホテルを利用できなくなる。滞在中の時間を潤す疑似恋愛なら問題ないけど、仕事中に本気で客を口説くのは一流のホテルでは馘だ。それは女性従業員と男性客でも変わらない」

砂糖煮の娘は口を結んで頷いた。「でも」と金ボタンは水音がする浴室を顎で指した。「あれは客じゃないだろ」

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

煙の無表情

煙は黙っている。金ボタンの声が耳に入っていないかのように表情がない。その顔を見ると金ボタンは「あと数年で四十か」と呟いた。「新しい世界を見る最後のチャンスかもしれないな」

「というと?」と首を傾げる煙の声と、「なに言ってるの?」と叫ぶ砂糖煮の娘の声が重なった。

金ボタンの提案

「砂糖っ子も、俺も、煙も、ずっとここにいなくてもいいってことだよ。あの泥まみれの姫君と生きていく道だって選べる」

金ボタンは煙の顔だけを見て言った。

「金のパパったら、なんてことを言うのかしら!」

自分のベッドで脚をばたばたさせながら砂糖煮の娘は喚いた。ザックは濡れた髪もろくに乾かさず、床に敷いた新聞紙の上で石や化石の泥を落としていた。時折、汚れた手を傍らの皿に伸ばす。床に置かれた皿には、賄い用のパンに野菜やハムや煮込みを挟んだ不格好なサンドイッチらしきものがあり、ザックが頬張るたびに具がはみだしては落ちた。

サンドイッチの不器用さ

砂糖煮の娘はどこから注意すべきだろうかと思いながら、「サンドイッチを作るのは下手なのね」と身を起こした。

「だから、床で食べているんだけど。化石のクリーニングの方が得意」

「あと、菫の砂糖漬け」

「そうそう、生まれて初めて得意料理ができた」

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ