「やや、これ童、怪我はないか?」
倫太郎がそう声をかけたのは、一人の小さな女の子だった。髪は乱れ、着物はつんつるてん。裸足の足裏は汚れ、小さな傷も見える。
迷子の少女と野次馬の騒動
「おい、おい、泣いていてはわからぬ。ん? 親はどこだ?」
途端に周囲から野次馬が集まり始めた。倫太郎はすっかり囲まれ、連れの雄馬と時蔵の姿さえ見えなくなる。ただ泣きやまない子どもだけがそこにいた。
「なんでもないんだ。この子がぶつかって」
すると、ねじり鉢巻きの男が凄むように言った。「なんだい、お侍。こんな小せえ子のせいにしようってのか?」周りも囃し立てる。
「いや、拙者、そのようなつもりは毛頭ござらん!」
「つもりもへったくれもあるもんかい」と別の者にも凄まれる。
兄妹の絆が救う
「おい、友田どのどこだ! おい、雄馬どの! 時蔵、助けてくれ」
声を張ると、野次馬をかき分けて現れたのは一人の男の子だった。「おいらの妹になにする! 泣かしたのはてめえか!」
妹だと? 十二、三歳くらいだろうか。男の子も垢じみた継ぎ当てだらけの小袖を着て、顔も脛も真っ黒だ。
「この田舎侍が。どこに眼をつけて江戸を歩いていやがる」
急ぎ自分の妹を抱き抱え、小袖の砂埃を払ってやると、「ほら、兄ちゃんが負ぶってやるから」と言う。ぴたりと泣きやんだ女の子は、兄に背負われその場を後にした。野次馬たちも倫太郎を睨め付けつつ去っていく。
倫太郎は一人残され、兄妹の強い絆に心を打たれた。この出来事が、彼のその後の食の道にどのような影響を与えるのか、次回が楽しみだ。



