大阪・西成の釜ヶ崎で路上生活者らの支援を続けるメダデ教会の牧師、西田好子さん(69)は、依存症の男性ヒデキさん(46)を精神科病院へ入院させようと奔走するが、福祉事務所に「緊急性がない」と断られる。さらに、教会の最古参信徒オチさん(73)から「あいつは人間の屑や」と言われ、激怒して「メダデ教会、解散や」と宣言する事態に発展した。
説教で「愛の不足」を告白
連日騒動を起こし続けたヒデキさんは5月、アパートを追い出された。信徒たちの表情は明るくなったが、西田さんは「あの子はもう野垂れ死にするしかないんかね」と複雑な心境だった。しかし、ヒデキさんが自室に残した手紙が心境を変えた。以前裁判を担当した弁護士に宛てようとした手紙には、西田さんと出会い路上生活を脱出できたこと、酒を断っていることがつづられ、「俺は生まれ変わりたい――」と結ばれていた。
退去から数日後、教会での説教で西田さんは「確かにヒデキには参った。私もギブアップやった。でも私、落ち込んでるねん。神が私たちの愛を試した。でも残念ながら落ちてしもた。愛が不足してたんや」と語り、「あんたら、飢えている人と愛を分かち合えよ! 友のない人と、隣人になれよ! もっと愛をばらまくんや!」と呼びかけた。説教後、西田さんは信徒を連れてヒデキさんを捜し、教会の周辺で見つけた。「迎えに来てくれたんか」と涙を流すヒデキさんに、「ヒデキ。酒を抜け。入院しろ」と言った。
福祉事務所との対立
西田さんはヒデキさんに入院を促すが、ヒデキさんは「刑務所に入った方がマシや」と抵抗。過去の精神科病院でのトラウマがあった。なだめすかして診察に行かせ、「要入院」の診断を得て、なんとか同意させた。しかし、医療扶助の可否を決定する福祉事務所のケースワーカーは「入院の緊急性がないので、新たな居宅を探してください」と回答。西田さんは「なんでわかってもらえんのや」と憤慨し、信徒の住むアパートに戻って皆を集め、事務所への同行を求めた。
ところが反応は鈍く、最古参のオチさん(73)が腕組みしたまま「あんなん連れてきたんが間違いなんや。あいつは人間の屑や」と言い放った。西田さんは「屑」という言葉を最も忌み嫌っていた。「なんで屑って決めるねん! 赤ちゃんのときから屑やったんちゃうやろ。そない言うたらお前も屑やったやないか。さんざん家族に迷惑かけてきたんやろ。どこがちゃうねん?」とまくし立て、「嫌やったら、出ていったらええわ。なにが『愛あふれる教会』じゃ。メダデ教会、解散や。かいさーん!」とキレた。
「愛の免許」と限界
西田さんはヒデキさんを連れて再び福祉事務所へ向かい、「入院させへんのは、自殺行為です」と再考を求めた。主張は認められ、ヒデキさんは3か月の入院が決まった。しかし西田さんは「情けなくてね、自分が。誰よりも思いはあるけど、何の資格もあらへん。役所から見たら、ややこしいことばっかり言う、けったいなオバハンでしかない」と沈んでいた。「私には『愛の免許』があるんや。でもそれは、なかなか理解されへんねん」とも語った。オチさんの「人間の屑」発言もショックだったが、他の信徒への悪影響を心配していることも理解できた。
入院から3日後、ヒデキさんが弾んだ声で電話してきた。「お母ちゃん、俺、病院出たから。今から西成戻るわ」。



