文藝春秋は、文春新書『戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない』(赤根智子・著)の重版を決定した。著者が米トランプ政権からの制裁措置を受けたとの報道を受け、「国際刑事裁判所」の存在や役割への関心が高まり、赤根所長への応援の声が集まっている。
赤根所長のコメント
赤根所長は「今回の私に対する制裁は、ある程度予期していたことで驚きはない。重要なのは、これを国際的な「法の支配」の終焉の始まりとさせないこと。日本と日本の皆様の支援が重要な鍵となるだろう」とのコメントを寄せている。
新書の内容と著者プロフィール
目次より、プロローグ「プーチン氏から指名手配を受けた日」、第一章「国際刑事裁判所が戦争犯罪に対峙する」、第二章「国際刑事裁判所とは」、コラム「ICCが捜査・訴追した事案」、第三章「私はこんなふうに歩いてきた」、第四章「国際刑事裁判所と日本の未来」、エピローグ「日本発の、法の支配を守る動きに期待して」で構成される。
赤根智子氏は東京大学法学部卒。1982年検事任官。横浜、津、名古屋、仙台、札幌他地検検事、東京高検検事、函館地検検事正などを経て国際連合アジア極東犯罪防止研修所所長、法務省法務総合研究所所長、最高検察庁検事など歴任。名古屋大学・中京大学法科大学院教授、外務省参与・国際司法協力担当大使なども務めた。2018年国際刑事裁判所(ICC)判事。2024年3月からICC所長。
プロローグ抜粋
新書のプロローグでは、アメリカによる制裁の可能性が高まってから、日本政府の関係者に対してICCを支援するよう働きかけを続けてきたと振り返る。2024年の暮れには日本を訪れ、外務省や国会議員に「ICCのために手を尽くしていただきたい」と依頼したという。
「私たちは裁判所であり、私は裁判官ですので、締約国でもない国の政府に対して何らかの働きかけをすることなどできません。だからこそ、政治家や官僚の皆さんに政治力・外交力を発揮していただきたいのです」とし、制裁が発動された場合でも範囲が小さくなるよう、同盟国の日本からアメリカに働きかけてほしいと訴えた。
また、強い制裁が発動されれば給与の支払いができなくなり組織の機能がマヒすること、アメリカのIT企業との取引が停止した場合には捜査や裁判ができなくなり保護している被害者や証人に危険が及ぶ可能性があることなどを具体例として挙げた。ICCが政治的な存在ではないことも強調し、「法にもとづいて犯罪を犯したと思われる人物に対して判断を下しているのであって、どこか特定の国に対する政治的な判断をしているわけでもないし、特定の国やグループを敵視することなど絶対にない」と述べている。
さらに、日本が掲げる「法の支配」の価値について、「日本ではどちらかというと当たり前に『そこにあるもの』ですが、世界的に見ると決して当たり前ではない」と指摘。大統領や総理大臣が捜査や裁判に介入するようなことが世界のあちこちで起きているとして、政治に左右されないICCの存在の重要性を訴えた。
その上で、外務省や国会議員が熱心に話を聞いてくれたとしつつ、「単にICCがつぶれるかもしれないという話ではなく、世界から『法の支配』が消えることにもなりかねない危機なのだという認識を、皆さんと共有できたと感じています」と記す。一方で、トランプ大統領の大統領令を批判する共同声明に日本が加わらなかったことについては「非常に残念でした」とし、「政府は『日本はICCを守る』と世界に向けて力強く発信すべきです。そして政治力・外交力を駆使して、私たちICCが無事に存続できるよう動いていただきたいと思います」と結んでいる。



