16歳で高校を休学し、17歳で中退して線路作業員として働いた男性が、猛勉強の末に国立大学医学部へ合格したという異色の経歴をまとめた投稿が、Threadsで話題となっている。眼形成外科医の前田朋之さん(@dr_tomoyuki.maeda)が「医者としてはちょっと変わった経歴と言われます」と自身の歩みを振り返った投稿には、2.9万いいねが集まり、多くの称賛や驚きの声が寄せられた。
宅建の資格取得が医師を目指す転機に
前田さんは、線路作業員として働いていた18歳の時、上司からの助言で宅建を取得したことが医学部を目指す大きな転機になったと振り返る。当時の上司の言葉や勉強に火がついた具体的なきっかけについて、次のように語った。
「高校を中退した後、地元の先輩の紹介で線路作業員として働いていました。当時は体力と若さくらいしか提供できるものがなく、とにかく目の前の仕事をがむしゃらに頑張っていたのですが、数ヶ月働いた頃、会社の上司から『宅建の資格を取ったら、不動産系の部署で働くこともできる』と声をかけていただいたんです。その言葉をきっかけに宅建の勉強を始めてみると、努力した分だけ知識が増え、模試の点数が上がり、結果につながっていく感覚がありました。学歴も実績もお金も何もなかった自分でも、勉強によって選択肢が広がる可能性を見出せたんです。宅建は医学部受験を直接決めた理由というより、『勉強すれば人生を変えられるかもしれない』と感じた最初の成功体験となり、そこから高卒認定、大学受験、医学部受験へと少しずつ目標が大きくなっていきました」
「自分には無理だ」という思い込みを乗り越えて
まったく勉強しなかった時代から一転して医学部に合格するまでに直面した最も大きな壁について、前田さんは「学力そのものよりも、『自分には無理だ』という思い込みだった」と語る。
「sin、cosやbe動詞、元素記号すら知らなかったので(笑)。ただ、現実味がなさすぎたからこそ、無謀にも挑戦できたのかもしれません。一気に医学部合格だけを見ようとすると途方もなく感じるので、まずは目の前のことを一つずつ積み上げることを意識しました。高卒認定を取る、分かることから潰していく、模試を受けてみるなど、小さな成功体験を積み重ねることで、果てしない道のりという現実を理解してからも諦めずに進むことができました。周囲からは才能があったと言っていただくこともありますが、才能というより、途中で諦めなかったことが一番大きかったと思います」
眼形成外科を選んだ理由とやりがい
異色の経歴を経て医師となった現在、眼形成外科という専門分野を選んだ理由について、前田さんは「もともと、手を動かして何かを作ったり直したりすることに強い興味がありました」と話す。10代で線路作業員として働いていた経験もあり、手を使って現場で技術を磨いていく職人的な世界に惹かれる部分があったという。
眼形成外科は、まぶたや涙道など目の周りの機能と整容を扱う分野だ。手術は非常に繊細で、顕微鏡を使った数ミリ単位の操作が求められるが、その緊張感と技術を磨き続ける必要があるところに大きな魅力を感じていると語る。
「やりがいを感じるのは、手術後に患者さんから『人生を取り戻せた気分です』『先生に出会えてよかったです』などと言っていただける瞬間ですね。目元は機能だけでなく、患者さんの表情や自信にも良い変化が生まれるところに、眼形成外科の大きな意義を感じています」
遠回りした経験が今の強みに
さまざまな現場で働き、独自の人生を歩んできた経験は、現在の患者さんとの向き合い方や医療に対する姿勢にどのように活きているのか。前田さんは「自分自身が順調な道を歩んできたわけではないので、患者さん一人ひとりにそれぞれの背景や悩みがあるということを、自然に意識できていると思います」と話す。
また、線路作業員として働いていた時代に、現場では一つのミスが大きな事故につながるという緊張感を経験したことが、手術にも通じるものがあると語る。
「目の奥の操作は非常にリスクもありますし、一つひとつの操作を丁寧に積み重ねる集中力や、準備・確認を怠らない姿勢は、これまでの経験から学んだものですね」
「過去や今の自分だけで未来を決めなくていい」
今まさに進路に悩んでいたり、再起を目指したりしている若い世代の方々へ向けて、前田さんは次のようにメッセージを送る。
「私自身、高校を中退した17歳の時点では、医師になるとは全く想像していませんでした。当時は自分の将来を特に考えておらず、気づいたらいつの間にか社会に出ていて、朝、現場で仕事をしている時に高校生が通学していくのを見て複雑な気持ちを抱いたこともあります。ただ、人生はある時点での状態だけで決まるものではないと思っています。過去に失敗したことや遠回りしたことがあっても、そこから何を選び、どう積み上げていくかで人生は本当に変わっていきます。大きな目標をいきなり達成しようとすると苦しくなるので、まずは今日できることをひとつやる。その小さな成功体験の積み重ねが、大きな変化につながります。今、進路に悩んでいたり、やり直したいと思っていたりする方には、『過去や今の自分だけで未来を決めなくていい』と伝えたいです。遠回りした経験も、必ずどこかで自分の強みにできると思います」
前田さんは現在、眼形成外科医として、まぶた・涙道・眼窩の疾患を中心に診療・手術を行っている。SNSでは、眼科や眼形成外科のこと、ご自身のキャリアなどについて発信している。



