箱根の和の料理人、門馬敏さん(57)が9月9日の重陽の節句に合わせ、菊花を模した楽焼の小鉢に秋の味覚を盛り付け、季節の訪れを表現した。標高が高く豊かな森林が息づく神奈川・箱根では、夏の暑さが残る中でも、新しい季節へと向かう空気が感じられる。
重陽の節句と菊のいわれ
重陽の節句は「菊の節句」とも呼ばれ、縁起が良いとされる陽数(奇数)の最大「9」が重なるおめでたい日。邪気を払う力が宿ると信じられていた菊の花を観賞したり、花びらを浸したお酒を飲んだりして、延命長寿を願ったという。新暦の9月は大輪の菊花を愛でるにはまだ早いため、門馬さんは季節を先取りし、料理にその思いを託した。
旬の魳と希少なきのこの一皿
旬の魳(かます)は焼き浸しに。「魳は皮と身の間に脂がある。皮をあぶると、こうばしい香りとうまみが引き立ちます」と門馬さん。皮目に軽く焼き色をつけ、冷水にさらす「焼き霜」の後、焼いた骨から取っただしにじっくりと浸す。淡泊な身にだしの風味が染み入り、深みを増した味わいが秋にふさわしい。
きのこはそれぞれの持ち味を生かすため、「薄口しょうゆと酒の風味を薄くまとわせて焼いただけ」。湿地茸(しめじたけ)、平茸(ひらたけ)、そして白い花びらのような見慣れないきのこは、コリコリとした繊細な食感が新鮮に映った。「『ホホホタケ』です。そもそもは『ハナビラタケ』という希少な品種で、隣の静岡県で人工栽培に成功し、ユニークな名がつけられたのです」
うまみの相乗効果と季節の表現
魚ときのこの組み合わせは、和食の伝統的な季節感を醸す組み合わせ。門馬さんはその狙いについて、「きのこに含まれる主なうまみ成分はグルタミン酸やグアニル酸、魚はイノシン酸。異なるうまみ成分を組み合わせることで、相乗効果が生まれるわけです」と明かす。めでたさも、うまみも極まる9の日の一皿に、心まで満たされた。
門馬さんは全国日本調理技能士会連合会師範、日本料理研究会師範、企業内保養所「彫刻の森クラブ」調理長(フジランド調理課長)。昭和43年宮城県に生まれ、16歳から修業を積み、平成19年から現職。令和3年には「神奈川の名工」(神奈川県卓越技能者)を受賞している。



