『買わない生活』(東洋経済新報社、1980円)の著者で、日本一アフロヘアの似合う女性と評される稲垣えみ子氏は、50歳で会社を辞めた。収入が減り、これまで通りにはお金を使えない中で始めたのが、文字通りの「買わない生活」だ。
質素な暮らしで得たもの
一汁一菜の食事に切り替えると体調はみるみる改善し、不用品を欲しい人にあげればお礼にいただきものが増えるなど、人間関係も生活も豊かになった。金銭を介さない暮らしで、それまで経験したことのない幸せを得たという。
著者は以前の自分が「幸せになろうとして金を稼ぐ。しかし、金を稼ぐために幸せを犠牲にすることを厭わない」という無間地獄に陥っていたと気づく。人間が生きるために必要なものはそれほど多くなく、必要以上に稼いだお金は他人を幸せにするために使えば、その幸せがいつか自分に返ってくる――というのが本書で到達した悟りだ。
印税を値引きに回す実践
著者が印税を受け取らず、その分本の値段を下げているのもその実践とされる。本書は3刷、3万部に達している。
評者の尾崎俊介氏(愛知教育大教授)は、老後のお金の心配は尽きないとしつつも、幸福の不確かさをお金で補おうとする発想の危うさに思い至ったと述べる。価値観の転換を促す点で、優れた自己啓発本だと評している。
稲垣えみ子氏は1965年愛知県生まれ。元朝日新聞記者で、論説委員や編集委員を務め、2016年に退職した。著書に『魂の退社 会社を辞めるということ。』などがある。