東京23区でクラフトビール(地ビール)を製造・販売するブルワリー(醸造所)が相次いで設立され、その数は10年ほど前と比べて約6倍に増加した。東京国税局の最新の統計によると、23区内でビールと発泡酒を出荷する製造場は、2024年度時点で88か所に上る。2018年の酒税法改正で多様な地ビールや発泡酒が製造できるようになり、新規参入する小規模事業者が増えているという。
副原料に果実など、独自色を追求
足立区の西新井大師近くにある「あだちブルワリー」では、マンゴーやパイナップル、カシスなどを原料にした10種類の地ビールを醸造・販売している。このうち「アメリカンスタイルライトラガー」は、区内唯一の米農家が作ったもち米を使用し、地産地消に貢献している。
今年5月には、台東区浅草の仲見世商店街近くでビアスタンドをオープンした。外国人観光客らをターゲットにし、阿尾由季社長(48)は「オリジナリティーのある色んなビールの味を国内外の多くの人に楽しんでもらいたい」と語る。
規制緩和が参入を後押し
東京国税局によると、23区内の製造場数は2014年度の15か所から約6倍に増えた。背景には、2018年4月の酒税法改正がある。ビールの定義が麦芽比率67%以上から50%以上に引き下げられ、主原料の麦芽、ホップ、水以外の副原料に香辛料や果実の使用が認められた。この規制緩和で多様な種類の地ビールが製造できるようになり、独自色を出そうと新規参入する事業者が相次いだ。
大規模な工場を構えずに地ビールを醸造できることも製造場の数を伸ばす要因となっている。ビールの免許を取得するには年間最低60キロ・リットルの製造拠点が必要だが、発泡酒の免許なら年間6キロ・リットルで済む。地ビールは副原料を5%超使用した発泡酒としても製造できるため、小規模なブルワリーが相次いで創業されている。2022年以降、23区内の発泡酒の製造場数がビールの製造場を逆転し、2024年は58か所と、ビール30か所の2倍となった。
新規参入の醸造所、地域に根ざす
2024年にオープンした中央区晴海の「柴田屋酒店晴海ビール醸造所」も、小規模で新規参入した事業所の一つだ。11・6平方メートルのスペースに200リットルのタンクを二つ置き、1か月で500リットル程度の地ビールを自家醸造している。
鮮やかな黄金色が印象的な「晴海フラッグゴールド」など季節ごとに変わる8種類が楽しめる。醸造所の運営会社役員の能村夏丘さん(45)は、ビールの本場ドイツでは「(醸造所の)煙突が見える範囲で飲むビールが一番うまい」という格言があると語り、「できたてのビールは本当においしい」と胸を張る。
醸造所があるのは、約1万1000人が暮らす東京五輪・パラリンピックの選手村跡地「晴海フラッグ」のマンションの1階だ。「歴史が浅い街だからこそ、新しい歴史を作るピースになりたい」と能村さん。「地元の街のパン屋さんのように、都心でも身近に気軽に地元のお酒として、地ビールを楽しめる世の中を目指している」と話している。
ブーム再来の背景
各地の地ビール事業者が加盟する一般社団法人「全国地ビール醸造者協議会」(渋谷区)によると、国内でクラフトビールが製造されるようになったのはおよそ30年前。従来はビールの年間最低製造数量が2000キロ・リットルで、免許取得が実質的に大手メーカーに限られていたが、1994年4月の酒税法改正で60キロ・リットルに引き下げられ、各地でビール製造が始まった。
地域おこしや観光の目玉として、2000年頃には地方の清酒メーカーなどの参入が相次いだが、次第にブームは下火に。ところが、ネットショップの普及や欧米産のクラフトビールを提供する飲食店が増えたことから、クラフトビールの知名度が向上し、十数年前から再び新規参入が増え始めた。特に、フルーティーな「ヴァイツェン」、ホップの苦みが濃い「IPA」など国内で流通が少ない「エール」ビールの人気が高まったという。



