秋田市山王で56年にわたり地域住民に愛されてきたフランス料理店「サンビーム」が10月に閉店する。オーナーシェフの阿部稔さん(80)は「好きだったからここまで続けてこられた」と半世紀の歩みを振り返った。
創業から現在まで
阿部さんは大仙市生まれ。東北学院大(仙台市)に在学中、洋食店のアルバイトを始めた。店には有名ホテルや宮内庁の施設で働いていた料理人たちがおり、料理への向き合い方や美食の楽しみを教わったという。
大学卒業後、1970年に秋田市大町のビル内に洋食店「サンビーム」を開業。店名は結婚したばかりの妻・冨美枝さん(2020年に75歳で死去)が「太陽の光はなくなることがないから」と考案した。当時は「ごちそうと言えば出前のカツ丼だった時代」で、洋食を提供する店は珍しく、同じビルの映画館で映画を見た客も多く訪れた。83年の日本海中部地震の際は同市南通地区に店があり、何百本ものワインが棚から落ちて割れる被害も受けた。
こだわりのメニューと店舗
現在の店舗に専念したのは50歳。喫茶店や食堂など複数の店舗を手がけた時期もあったが、「経営より料理を作ることが好きだ」と気づいた。初めてテナントではなく、設計からこだわりを詰め込んだ店を建てた。夏は地中海風のさわやかさを、冬は雪の中で暖かさを演出できるオレンジ色の外壁もこだわりの一つだ。
値段を度外視しても質の良い食材を使うといい、人気メニュー「レディースステーキランチ」はA5ランクの秋田錦牛を2420円(税込み)で味わえる。口の中に肉のうまみが広がるステーキは好評で、親子3代で訪れる常連客もいるという。
閉店の決断と今後
高齢となって後継者を探していたが、条件の合う希望者は見つからなかった。「常連さんの顔がわかるうちに」と閉店を決めた。「妻は『ご苦労さま。好きなことをやれてよかったね』と言ってくれるのではないか」と話す。
「毎日精いっぱいで、さみしさを感じる暇もない」と笑うが、「閉店を知って来てくれる方もたくさんいる。本当はもっとやりたい気持ちもあるが、最後まで無事に続けられれば」と名残惜しそうに話した。



