なぜ現代の結婚は難しいのか?凪良ゆう『多類婚姻譚』から読み解く結婚の歴史と変遷
現代の結婚はなぜ難しい?凪良ゆう『多類婚姻譚』から歴史を読み解く

お盆や年末年始の帰省時に独身者に降りかかる「結婚」の圧力。オリコンの本ランキングから社会のトレンドを分析するYouTube番組「オリコンBiZトーク」では、直木賞候補にもなった凪良ゆうの作品『多類婚姻譚』をきっかけに、結婚の在り方について議論が交わされた。番組では、紀元前2350年頃のメソポタミアから現代の多様な選択肢に至るまで、人類にとって結婚とは何だったのかを歴史的変遷とともに考察している。

『多類婚姻譚』が描く現代の結婚の悩み

番組内で取り上げられた『多類婚姻譚』は、現代の結婚に関するさまざまな悩みや実情を描いた5編の短編からなる作品だ。作中の2編目では、入籍を目前に控えた男女の葛藤や、丁寧な暮らしをしている地方出身の1人暮らしの派遣社員の女性が抱く、東京での結婚への果てしなく遠い道のりなどが生々しく描かれている。また4編目では、極端な価値観を持つ恋人に翻弄される男性主人公の姿が描かれており、男性の心理を代弁するような内容に救われる読者も多いという。

著者は、現代の結婚の難しさを浮き彫りにしつつ、読者と共に結婚について語り合いたいという思いを本作に込めている。

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結婚の起源と日本の歴史的変遷

この作品が提起する「結婚とは何か」という根源的な問いに対し、番組では歴史的な視点からアプローチを試みている。記録として確認できる最も古い結婚は、紀元前2350年頃のメソポタミアに存在したとされている。当時の結婚は男女の恋愛感情に基づくものではなく、財産や家族、血統を管理するための極めて現実的な法契約に過ぎなかった。

視点を日本に移すと、文献上で最も古い結婚として語り継がれているのは、古事記に登場するイザナギとイザナミによる神話の世界の出来事だ。日本の結婚観に劇的な変化をもたらしたのが明治時代である。1898年に明治民法が施行され、結婚は法的な「家制度」の中に組み込まれた。妻が夫の家に入るという形が定着し、親や親族による仲介、すなわちお見合いが極めて重要な役割を果たすようになる。当時は家柄や身分、同業の財産などが重視され、当人同士の意志よりも家と家との結びつきが優先されていた。「恋愛」という言葉自体も、明治初期に英単語の翻訳として日本に広まった比較的新しい概念である。

戦後からバブル崩壊、そして現代の多様化

戦後になると、結婚は法的に個人同士の結びつきとして再定義された。しかし、高度経済成長期を経て昭和の時代に定着したのは、男性は会社で働き、女性は家庭を支えるのが当たり前という価値観だ。1960年代後半には、恋愛結婚の割合がお見合い結婚を上回り、70年代以降は恋愛結婚が主流となっていく。終身雇用や年功序列といった安定した経済基盤を背景に、結婚して子供を持ち、マイホームを買うという共通のライフモデルが広く共有されていた時代である。

こうした単一的な結婚観に大きな転換点が訪れたのが、1990年代のバブル崩壊だ。経済状況の悪化に伴い、男性1人の収入だけで家庭を支えることが困難になり、結婚の前提条件が劇的に重くなった。経済的な安定がなければ結婚に踏み切れないという意識が広まり、結果として結婚が人生の絶対的なゴールではなくなっていく。2000年代に入ると、自ら機会を探しに行かなければならない状況を表す「婚活」という言葉が生まれ、さらに結婚しないという選択をする人も増加していった。

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令和の結婚:多様化する選択肢と残る難しさ

令和の現在、結婚の形はかつてないほど多様化している。マッチングアプリを通じての出会いが当たり前となり、事実婚や別居婚を選択する夫婦も珍しくなくなった。子供を持たない生活を選ぶ人や、不妊治療に向き合う夫婦、さらには育児休業を積極的に取得する男性など、価値観は人それぞれに細分化されている。一方で、家賃、教育費、共働きでの家事分担、将来の介護など、生活に乗しかかってくるあらゆるコストを前に、結婚の難しさを感じる若者も多い。

古代の契約から始まり、家を守るための手段、そして個人の結びつきへと変化してきた結婚は今、数ある人生の「1つの選択肢」として新たな局面を迎えているようだ。『多類婚姻譚』のなかには様々な価値観を持つ登場人物が、結婚そのものや異性や同性に求めるものをリアルに投げかけている。物語という架空ではあるが他者の生きざまに触れることで、自分にとっての「結婚」をアップデートしてみてはいかがだろうか。