安田依央「わたしの骨はどこへいく?」終活の先「骨活」と向き合うエッセー集
安田依央「わたしの骨はどこへいく?」終活の先「骨活」を考える

作家で元司法書士の安田依央さんが、異色のエッセー集「わたしの骨はどこへいく?」(集英社)を出版した。終活の先にある「骨」を巡る問題について、ユーモアを交えてつづっている。なぜ骨と向き合うことになったのか、安田さんに聞いた。

「人は死んだら終わりじゃない」

――本書を執筆した経緯を教えてください。

安田さんはかつて司法書士として、遺産相続や成年後見人制度など、人の終末に関わる仕事が多かったという。あるとき、相続についての相談が立て続けに持ち込まれ、いずれも「今さらどうしようもない。せめて遺言を残すとか、生前に何らかの手を打っておけば……」というケースだった。それで、備えることの大切さを痛感し、「終活」を提唱した。

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ただ、そのころは終活と聞くと「縁起が悪い」「そんなこと考えたくない」と抵抗感を持つ人が多かった。そこで、終活を身近に考えてもらおうと、理想の死に装束でランウェイを歩く「終活ファッションショー」を開催した。その後、世間に終活が浸透したため、いったん距離を置いた。

ところが、自分も還暦間近になり、終活が人ごとではなくなった。父は90歳を過ぎ、母は介護中。一人っ子で独身の自分が突然いなくなったらどうなるのか。改めて終活を考えてみると、世の中のフェーズが変わっていることに気づいた。

かつてはほとんどの人が家族に支えられながら最期を迎え、終活は残される家族のための準備だった。ところが現在は家族関係が希薄になり、託す家族がいない人や、いても頼りたくない人が増えた。別の角度から「死の準備」を考える必要がある。そこでひらめいたのが「骨」だった。

「人は死んだら終わりではなく、骨が残ります。家族もなく、葬る人もいない骨はどこにいくのか――。そう考えて、骨の行方をテーマに書くことにしたんです」

エッセーで書いた理由と工夫

2012年に自身の体験を描いた小説「終活ファッションショー」(集英社)を出版した安田さん。今回はエッセーとして書いた理由について、「骨の行方をいきなり小説で書いても理解されない気がした。きっちり書くにはノンフィクションの方がふさわしい」と語る。

また、「暗い話だ」「難しい法律の本だ」と思われて離脱されないよう、さまざまな工夫を施した。冒頭に「この本の読み方(取説)」を付け、目次を「骨のすごろく」にし、かわいいイラストを多用して気楽に読めるようにした。

――骨について書こうと思いついたのは、司法書士の経験がベース?

「司法書士の経験は知識の土台ですが、実は20歳くらいから骨や墓に興味がありました。暗黒系ロックバンドで骨の歌を歌っていたくらいです(笑)。きっかけは祖父の葬式。親戚どころか叔父の会社の関係者が大勢来ていましたが、ほとんど祖父のことを知らず、ゴルフの話で盛り上がる人もいた。そのとき『葬式って誰のためにするの?』と疑問に思ったんです」

孤独死と骨の行き場

本文では、警視庁の集計で2024年の孤独死が全国で2万人以上、1日平均55人と紹介されている。安田さんは「決して老人だけの問題ではない。20代、30代でも孤独死は起こりえます。引き取り手のいないご遺体は、骨にもなれないし、なれたとしても行き場がない」と警鐘を鳴らす。

「この本を書いたのは、若いうちに『自分の骨の行方』を頭の片隅でいいから考えてほしいという思いもありました」

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安田さんは、亡くなった母の骨を骨壺に入れてリビングに安置している。家には墓がなく、もし自分が死んでしまえば母の骨も行き場を失う。たとえ墓を建てても、骨を入れてくれる人や墓を守ってくれる人がいなければ無縁墓になる。

「祖父母や親の死は確実にやってきます。骨や墓の継承問題を深く考えていない人が多い。できれば早いうちに家族で話し合ったほうがいいけれど、いきなり『お母さん、骨どうする?』と言い出したら何事かと思われる(笑)」

お墓は「負の遺産」、行政の最善策は合祀

お墓は「負の遺産」とも言われ、子どもに苦労させたくない親も多い。骨の処分方法について、安田さんは「現在、行政にとっての最善策は『合祀』です。骨を海にまいてほしいとか、樹木の下に埋めてほしいと行政にお願いできる状況ではない。頼めないなら、自分でなんとかするしかありません。使える法律やサービスを自分で探して、パッチワークみたいにつなぎ合わせて利用するんです」と説明する。

本書では、神奈川県横須賀市の終活支援システム(エンディングノートのウェブ版)や、福岡市の死後事務を委任できる保険制度を紹介。ただし、どちらも利用対象者は限られる。「身寄りなき者に手を差し伸べる自治体が、全国にもっと増えるといい」と願う。

「身寄りなき者同盟」と新イベント

安田さんは「身寄りなき者同盟」を提案している。身寄りがなく死後を託せる人がいない人たちを助ける制度が必要だと考え、同じ境遇の者同士で助け合う仕組みを作るアイデアだ。「普段は関わらないけど、何かあったときだけ様子を見に行ったり、死後の手配をしたりする仕組みです」

その第一歩として、「人生横丁/骨の語り場」というイベントを始める。毎回テーマを掲げ、参加者が人生の断片を持ち寄って語り合う小さなフィールドワークだ。7月25日の第1回は「亡くなった誰かの自慢話」がテーマ。「亡くなった人の自慢をする場はなかなかないでしょう?『いつもこっそりプリンをくれた』『変な歌を自作していた』など、たわいのない話で構いません。店主の安田依央はただ耳を傾け、そこで生まれた人生の風景を記録します。現代の日本人の人生観、家族観、死生観を採取する試みです」と語る。12月頃には「骨の盆踊り」も開催予定だ。

――終活ファッションショーの発展系ですね。

「そうですね。今回は大阪での開催ですが、いろいろな場所でやりたい。人間の価値観や死生観は場所や属性で全然違う。年齢や職業によっても違うので、いろいろな人に集まってもらいたい。今回は間に合わないかもしれませんが、オンライン配信も考えています」

死や骨について考えることは決して後ろ向きではない。安田さんは「自分の終わり方を意識することで、より積極的に残りの人生と向き合いたい。行き着くところは、『どう生きていくか』だと思います」と締めくくった。