手塚治虫文化賞新鋭3氏が語る現代の「トキワ荘」と創作の孤独
手塚治虫文化賞新鋭3氏が語る現代の「トキワ荘」

今年の手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)でマンガ大賞を受賞した児島青さん、新生賞のサイトウマドさん、短編賞のかわじろうさんは、いずれもデビュー数年で栄冠を掴んだ新鋭だ。3人の座談会が実現し、前編ではマンガ家になった経緯やコミュニティーへの考えを語り合った。そこから浮かび上がったのは、現代の創作事情と、伝説的アパート「トキワ荘」のような場の必要性だった。

ネットからデビュー、新たな「まんが道」

児島青さんは、もともと個人的にマンガを描いていたが発表はしていなかった。「ここ何年かでネットにマンガを載せることが当たり前の時代になってきた」ことを受け、イラスト投稿SNSのpixivでマンガ投稿を開始。そこで編集者の目に留まったという。サイトウマドさんもネット経由だ。「作品を投稿したら編集者とつながれるマッチングサイトがいくつかあり、私は講談社のサイト『DAYS NEO』で担当がつきました」と振り返る。しかし、その作品が担当編集者の雑誌に合わないと判断され、薦められたKADOKAWAのコミックビームで描くようになった。

一方、かわじろうさんは小学生の頃、藤子不二雄(A)先生の自伝的作品「まんが道」に影響を受けて描き始めた。「主人公の2人が手作りのマンガ雑誌をつくっていたのにあこがれて、学校でコピー用紙を八つ折りにして、ギャグマンガを描いたりしていたんです」と語る。その後、中学生になると描かなくなったが、思いは残り続けた。コロナ禍で仕事が在宅勤務になり時間ができたことを機に、出版社「ゲンロン」が設立したマンガ家育成スクール「ひらめき☆マンガ教室」で描き方を学んだ。「毎回いろんなマンガ家の方が講師で来て、講評を受けられるので勉強になりました」と述べる。

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創作の孤独と不安、プロの壁

マンガを描く孤独感について、児島さんは「描き始めた頃は1人で作る作業が発露なので、不安より先にくる。吐き出さなければという気持ちが先走る」と語る。しかし、プロとして商業作品を描く必要に迫られた時、「初めて不安が発露をものすごい勢いで越えてきた。心の中にちっちゃい編集者さんが常にいて『そこはこうですよ』と言ってくれないものかという不安や孤独感は今もずっとあります」と打ち明ける。サイトウさんも「私も最初の頃はネットに描いたものを出したら『面白い』と反響がきてうれしさが中心でしたが、プロになってから怖さを感じるようになりました」と同意する。ただし、サイトウさんは「私の中に編集者さんがいると描けなくなっちゃう。描いたらまずいんじゃないかと意識しすぎてブレーキがかかる」と異なるスタンスを示す。「1回発露に戻って吐き出してから、編集者さんに調整してもらう感じじゃないと、つまらないものになっちゃう気がして」と説明する。

これに対し児島さんは「サイトウさんの作家としてのスケールが大きいんだと思います。私はもっと引き出してもらわないといけないのかも……」と応じる。かわじろうさんは「怪獣を解剖する」を引き合いに「抑えてこのスケールだったら、すごいですよ。元がめちゃくちゃでかいのでは」と称賛する。サイトウさんは「連載中の担当さんは比較的するっと通してくれる方だったからかもしれません」と謙遜しつつ、「編集者さんが自分の中にいると描けないというのは悪い意味ではなく、自分の中のものを出し切ったうえで編集者さんに調整してもらうとブラッシュアップされてよくなるんです」と補足する。

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現代に「トキワ荘」は必要か

アシスタント修行やネット経由など、マンガ家のなり方が多様化する中、伝説的アパート「トキワ荘」のような切磋琢磨の場は現代に必要か。かわじろうさんは「一緒には住まなくてもいいのかもしれません。ただ、個人で描く人が多いなか、どうやって描いているかを共有しないままそれぞれが頑張るよりは、お互いに技を盗み合ったり参考にし合ったりできたら面白いんじゃないか」と提案する。児島さんは「仲間がいた方が情報共有できて助かりますよね。私もKADOKAWAの雑誌ハルタに拾ってもらうまでは、マンガの『基本のき』を誰にも聞いたことがなくて、めくったところにドンとくるコマがあった方がいい、とかそういう意識も全くないまま描いていました。技術的な疑問は仲間がいることでショートカットでき、悩まなくて済む」と強調する。

サイトウさんは「私もマンガ家になってから同業の友達ができて、いろいろ教えてもらうこともあり心強い」と同意する一方、「美大に通っていた時に周囲の影響を受けすぎて、10年間ぐらい何も作れない時期がありました。人によっては感化されすぎて作れなくなる人もいるのかも」と警鐘を鳴らす。児島さんは「入り浸っている方が伸びる人もいれば、距離を置いた方がいい人もいる。それぞれの距離感で『トキワ荘』と付き合えればいいのかもしれませんね」とまとめる。