満腹でござる倫太郎食日記第57回 江戸で迷う倫太郎
満腹でござる倫太郎食日記第57回 江戸で迷う倫太郎

「そういう物言いはないだろう。母の煮穴子は絶品なのだぞ。そりゃあ、真砂屋の息子の口には合わんかもしれんが」

すると雄馬が何事か呟いて、ぷいと顔を横に振った。

「あの、坂上さま、そちらはあたしがお預かりいたしましょう」

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時蔵が倫太郎の手から包みを受け取った。

「では、行ってくる」

倫太郎は踵を返した。

江戸屋敷の門を出て、元来た道を走る。早くせねば、夜になってしまう。そもそも江戸の道がわからぬのに、暗くなったらなお迷う。

急げ、急げ。

空はもうすっかり暮色をしている。倫太郎は汗ばみつつ地蔵橋を目指す。

と、肝心なことに気づいた。

江戸に初めて足を踏み入れたのだ。地蔵橋がどこにあるのか知らない。

倫太郎は一瞬、途方に暮れたが、幸い通りはまだまだ往来がある。倫太郎はキョロキョロと辺りを見回し、老武士を目に留めた。

「ご老体、少々道を伺いたい。地蔵橋というのはどこでござろうか? 江戸は不案内ゆえ」

老武士は、旅装束のままの倫太郎を眺め目尻に皺を浮かせた。

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