江戸の町で見た哀しい光景
「町人とてやたら乱暴狼藉に走るわけではない。幕吏に捕らえられれば、一番困るのは家族だからな。先ほどの子どもなどは、コロリで親を取られてしまったのかもしれない。食うや食わずの暮らしをしているのだろうな。だから、こうして、薄ぼんやりした者の財布を掠め取ってるのだ」と、時蔵が倫太郎に語りかけた。
「しかし、どのように困窮していようと、物を盗むのはよくない。こんなにも町は賑やかで、色々な食い物で溢れているのに──」と倫太郎は反論するが、その口調には迷いが滲んでいた。
違和感の正体
なにやら哀しいな、と倫太郎は呟いていた。これが違和感の正体か。江戸の町は一見華やかであるが、すべてが裕福でもなく、幸福でもないということだ。倫太郎は振り返った。子どもらの姿などもう見えるはずがないのはわかっているのに眼で探してしまった。
地蔵橋の下の噂
「さっきの子らかどうかはわかりませんが、親なし子が、地蔵橋の下を塒にしているという噂を聞きました。あの子らも生きるのに精一杯なのでしょうが」と、倫太郎の様子に眼を細め、時蔵がいった。倫太郎はその言葉に深く考え込むのだった。



