最後まで優しかった母、猫にかけたタオルに涙…「猫がいるから」の意味
最後まで優しかった母、猫にかけたタオルに涙…「猫がいるから」の意味

北海道はあっという間に秋になった。夏の海辺をにぎわせていた人たちも姿を消し、浜はいつもの静けさを取り戻した。9月に入ると、「今日から秋です」とでも言われたように風がひんやりし始め、葉っぱも色づき、季節の移り変わりを感じさせる。

今年の夏を振り返ると、寂しい出来事があった。7月の終わりに、連載でも何度か登場してくれたブッチャーのお母さんが亡くなった。ケンジが「ブッチャー」と呼ばれ、お世話になっている家のお母さんだ。

認知症でも猫への愛情は変わらず

お母さんは数年前から認知症が進み、いろんなことを少しずつ忘れるようになっていた。それでも、ブッチャーのことは、ずっと覚えていて、「ブッチは賢いんだよ」といつもうれしそうに話してくれた。

亡くなる少し前、お母さんはご飯を食べることが難しくなり、家族の目が届くように、居間のソファで休んでいた。その足元には、いつものようにブッちゃんが寝ていた。しばらくして見てみると、ブッちゃんの体に1枚のタオルが掛けられていた。それはお母さんが掛けたタオルだった。

「寒かったらかわいそう」と続けた思いやり

7月の終わり。外はまだ暑い。ブッちゃんもきっと寒くない。それでもお母さんは、自分がしんどいはずなのに、足元で寝ているブッちゃんが「寒かったらかわいそう」と思ったんだろう。

元気なころから、「寒かったらかわいそう」と寝ている猫に湯たんぽを入れ、毛布を掛けていた。湯たんぽは冷めれば温め直し、毛布がはだければ、何度も掛け直す、そんなこまやかな愛情を猫に注いでいた。

ブッちゃんに掛かったタオルを見た時に私は胸がいっぱいになった。お母さんは、最後までやっぱり優しい人だった。そんなお母さんにかわいがってもらったブッちゃんは、本当に幸せな猫だ。

お母さんが残した優しさ、家には今も

お母さんが亡くなり、お父さんがひとりになった。長い間続いた介護の日々が終わり、家の中は急に静かになった。それでも、家には今日もブッちゃんがいる。

不思議なことに、ブッちゃんがいると人がやってくる。ブッちゃんが出社している運送会社の人がお昼ご飯を持ってきてくれ、浜の漁師さんがお魚を届けてくれる。「ブッちゃんのおかげだなぁ」とお父さんは笑う。

以前、お母さんがこんな話をよくしてくれた。「猫がいるから家の中が明るくなるんだよ」「猫を助けてるつもりで、本当に助けられているのは人間の方」。今、前よりずっとその言葉の意味がわかる気がする。

お母さんがいなくなってもこの家には、お母さんが残してくれた優しさがまだちゃんと残っている。今日もその真ん中にブッチャーがいる。